第5話
度々、作中でも可愛らしい少年と称されていたニールが満面の笑みを見せれば、それはまあ可愛いと言う他ないだろう。とはいえ、俺から見れば弟っぽい可愛さといったところだ。特に他意はない。
俺はどんなに俺自身が美少女になろうとも、女の子が好きだ。それだけは強く主張していきたい所存である。
「ねぇ、ハルさん。ボクたちと一緒に来ない?」
「え……いいのか?」
「うん。だって家が分からないんじゃ、帰れないだろうし……」
確かにニールの言う通り、今の俺には帰るところも行くところもないのだ。また、その辺の町に預けられるのも、とある事情により出来れば御免被りたい。つまりこの提案は、俺としても願ったり叶ったりというやつだった。
「そうね……女の子ひとりじゃ、どこに行くのも危ないし。ハルさえ良ければ……よね?」
「うん」
その場に座り込んでいた俺に視線を合わせるように膝をついていたフィーは、ニールに目配せしながら俺に優しく微笑みかけてくる。
フィーは一見気が強いが、基本的には優しく気遣いの出来る女の子だ。ニールの一歳上であり、仲間で最も早く一人旅を始めていたため道中も頼りになり、何より強くて可愛い。初めからニールの姉のように振舞っており、実際この二人は終始この関係を貫くのだから、もう姉弟として出した方が早かったんじゃないかとも思っていたぐらいだ。
恋愛なんてなくてもいいと思っている俺としては、実にいい関係の主人公とヒロインである。
「どうですか? 悪い提案じゃないと思いますけど」
だから、この男はなんなんだ。物腰は丁寧だし別にいけ好かない態度を取っているわけではないが、そもそも本来このゲームには居ない存在だからか、俺の中のアキという男に対する不信感は限界を超えようとしていた。
しかし、そこは本来二十代半ばの俺。感情的にはならずに言及するタイミングを計るためにも、今はただ大人しくその機会を窺うことにしたのだった。
「……そうだな、どうすりゃいいか俺も分かんないし……こっちこそ、頼むよ」
「うん! ボクはニール、よろしくね!」
俺の真正面に座り込み、またあの満面の笑みで握手を求めてくるニールの手を取った俺の姿に他の三人も安心したらしく、次々と自己紹介をしてくれた。といっても、アキ以外は既に顔も名前も性格も未来も知っているのだが、そこは言わぬが花だろう。
「――さてと。じゃあ、とりあえず町に戻りましょ。ハルの服も、買い替えなきゃ」
「……悪いな」
気にしなくていいと笑顔で答えるフィーは、俺の手を引きその場に立たせてくれた。そういえば彼女はニールよりも背が高い筈だ。ということは今の俺よりも当然長身で、しかも年齢も上なのである。既に妹分という認識になっていそうではあるが、それを阻止する方法は今の俺にはなかった。
まあ、せっかく優しくしてもらえるのだ。俺は現状この世界で生きる術を持たないのだから、大人しく厚意を受けておくしかないだろう。わざわざこの場を混乱させても、何ひとつ良いことはなさそうだ。
「……とはいえ、そのままの格好で町を歩かせるのも…………ハルさん、買い替えるまでは私の服でも羽織っていてください」
「あ、ありがとう」
俺の服の背中の破れを気にしてか、アキは自分が着ていた短いマントを俺の肩に羽織らせてくれた。どれほど破れているのかは分からないが、男が気にする程なのだから余程酷い有様になっているのだろう。いや、男だからこそ気になったのかもしれない。
ただ、ついさっきまで警戒していた筈なのに、「なんだ、こいつ良い奴じゃん」などと俺もコロッと絆されてしまったのだから、警戒心が聞いて笑わせる。この性格のせいで友達にからかわれる事も多く自覚はしているが、自覚しているのと直すのはまた別の問題だ。悪い人間に引っかかっていないだけ良しとしよう。
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