俺は大剣使いの美少女
天海
第1章 美少女の俺とゲーム世界
第1話
俺の名前は、
そしてこの日は、子供の頃に遊んでいたゲームのリメイク作品を、ちょうどクリアした記念すべき日だった。
なにせ、大人になるとなかなかゲームに時間をかける暇もなくなる。社会人二年目の俺など日々の生活で精一杯で、今年に入ってようやく趣味のゲームをする心の余裕が出来たのだ。仕事以外の場での久々の達成感に思わず歓声を上げ、アパートの隣の住人から壁を叩かれる程度には感動していた俺は、とりあえず隣人に頭を下げに行ってからゲームを再開した。
当然、ここまできたら二周目をやるつもりである。リメイクでやりこみ要素が増えているから、全て制覇してやるぞ、と意気込んでコントローラーを握った。
その時だった。
眩い光がテレビから発せられ、部屋は一瞬にして真っ白になる。テレビの光程度で部屋がどうこうなるなんて、聞いた事がない。もしかして故障か、などと妙に冷静になりながらも、これ以上近所迷惑にならないようにテレビの電源を落とそうとリモコンに手を伸ばした俺は、異様な感覚に襲われる。
「うわっ……! えっ、なんで引っ張られ……っ!?」
リモコンに伸ばした手が、光の方へ引っ張られているのだ。しかもその力が異様に強く、俺は腕どころか体そのものを引っ張られている感覚に陥った。
いや、感覚どころか本当に引っ張られている。みるみるうちに体は宙を浮き、地に足がつかない状態で光に飲まれた俺は、眩しさで目を潰されないよう、ただ目を瞑りこの異常現象が終わるまで耐えるしかなかった。
◆◆◆
こうして妙な光の先に引きずりこまれた俺は、目が覚めたら、見知らぬ森の中に転がっていた。
見渡す限りの、緑。そして、木々の隙間から覗く青い空と白い雲。そばを流れる小川のせせらぎや時折聞こえる小鳥のさえずりは、普段コンクリートジャングルで働き詰めの俺にとっては、まさに癒しの効果音と言えるだろう。このまま、母なる大自然に抱かれていたい――普段の俺なら、そう考えたかもしれない。
しかし、何かがおかしい。いや、何の前触れもなくこんな所に転がっている事がおかしいこと自体は当然前提に入ってはいるが、起き上がるといつもより明らかに視線が低い。そして視界に入る俺の手足は、妙に細く綺麗でやわらかい。そして小さくて、短い。
更に更に、それよりも先に気にしなければいけないものが俺の視界に入っていた。知的生命体である我々ホモサピエンスが倫理的にも、防護的にもどこかしらには絶対に身に纏っているもの――そう、衣服である。俺が着ているそれがなんと、困ったことに、裾や袖にフリルがふんだんに使われた可愛らしいワンピースなのだ。つまり、どう考えても女性物だ。
こんなものを着せるなんて一体なんの罰ゲームだ。と怒ろうとしても、俺に罰ゲームを仕掛けてくるような迷惑且つ愉快な友人はいないし、そもそもこの場には俺以外誰もいない。怒りのぶつけどころがないのだ。
「……もしかして、俺が自分で? いや、まさかな……はは」
想像するのもおぞましいが、とりあえず己の姿がどんな惨状になっているかぐらいは確認しておきたかった。いや、本音を言えば自分の女装姿など確認なんてしたくはないが、それでも怖いもの見たさ、というやつだろう。ちょっとばかし自分の声が高い気がするが、それも気にしてはいけない。
そんな不安な心境を誤魔化すように、盛大な独り言を漏らしながら近くを流れる小川を覗き込み、俺は遂に、自分自身の姿を確認してしまった。
「…………んん……?」
流れがあるせいで水面はよく揺れる。その為なかなか映る像は落ち着かないが、一箇所流れの穏やかな部分を見つけ、そこでようやく全貌を確認した。
髪の色には変化がない。地毛の茶髪は相変わらずで、忌々しい癖毛も相変わらずだ。
しかし、その髪が長い。顔も丸い。目も大きい。肩幅が足りない。胸が大きい。なにより可愛い、超絶可愛い。どう控えめに称しても、絶世の美少女である。
「おお……お、女……だな…………」
水面に映る俺の姿は、美少女だったのだ。そう、美少女だったのだ。
ツーサイドアップに大きなリボンを添えて、ふりふりのフリルがこれでもかと使われたドレスでごってごてに着飾っても嫌味のない、小柄で可憐で巨乳の美少女。それが今の俺だった。
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