第20話 モロバレと理由と
「どうしましょう! ワタシ、シードちゃんに惚れちゃったわああぁぁぁああ!」
突然叫び出し、勢いよくワシに飛び掛かってきた!?
咄嗟にワシは仰け反り、身を翻すことで、何とかアイリン殿の突撃を躱すことが出来た。
兎に角、再び襲われてはたまったものではない。
「【呪縛】」
アイリン殿を魔術で拘束すると、眼球だけ動かして此方を見ている。ある意味ホラーである。
「おいおいシード、さすがにちょっとやり過ぎじゃねえか?」
「ワシの代わりに、ギデオン殿がアイリン殿を受け止めてくれるのならば、【呪縛】を解くのも吝かではないがな」
ギデオン殿が、アイリン殿に【呪縛】を使ったワシを窘めてくるが、ワシとて命は惜しい。
ギデオン殿が身代わりになることを条件提示すると、心底嫌そうな顔をして押し黙った。ですよね。
「さて、アイリン殿。もう襲わないことを約束していただけるなら、直ぐにでも術は解かせていただくが如何か? 良いならば、目を右に動かしてくれるか」
すると、悩んでいるのか、目をぐるぐる動かした後、少し下に視線を落とす。
暫く見守っていると、渋々といった様子で、目を右に動かした。
ワシは右手で指を鳴らし、術を解く。
「……シ、シードちゃん……」
アイリン殿がまたも肩を震わせ、しかも、何故か目が潤んでいる。懲りていないのだろうか。
そして、ワシの肩をガシッと掴み、激しく揺さぶる。
「凄い、凄いわぁぁぁああ! 何なの今の魔法は!? 見たことも、聞いたこともないわよ!?」
どうやら先程の【呪縛】を受け、興味を持ったらしい。アイリン殿が非常に興奮しながら、顔を近付ける。いや、近過ぎる。
「だろ? コイツ凄えんだぜ。何たって、あの”魔王”様なんだからな!」
折角出身を偽ったのに、ギデオン殿のせいで台無しである。
あ、ミミ殿に頭を叩かれた。
「……ちょっと、詳しく言って貰えるかしら?」
会ってからこれまで、おふざけが過ぎたアイリン殿が急に真顔になり、ワシとギデオン殿達を交互に睨む。
「……シードは大丈夫。私達が知ってる魔王とは違う」
「そうだぜ! まだ知り合って数日だが、コイツが良い奴だってこたぁ間違いねえ!」
ミミ殿とギデオン殿が、ワシとのこれまでの出来事を含め、アイリン殿に説明しながらワシを庇ってくれる。だが、そこは「言い間違いでした」とか「言葉の綾だ」とか、言い訳するのが普通だと思うのだが、何で魔王であることを肯定してしまうのだろうか。
まあ、正直者である、と言えば聞こえは良いかもしれんが、少しは話術とか駆け引きといったものを学んでほしい今日この頃。
だが、魔界ではこのように庇ってもらったりすることはなかったな。魔界の住人にとっては、ワシは恐怖の対象でしかなかったからなあ。
ワシは嬉しいやらむず痒いやらで、ついついぽりぽりと頭を掻いてしまう。恐らく、ワシの顔は赤くなっていることだろう。
「……貴方達二人がここまで庇うんだから、信じてあげたいけど、やっぱり、大丈夫だっていう保証が欲しいわ」
そう言って、アイリン殿が、ワシへと向き直る。
「ふむ。その保証とやらを示すには、どうすれば良いのだ?」
「そうね……もし伝説通りの“魔王”だったら、少なくとも、人の下にはつかないと思うの。だから、貴方達が大丈夫と言い張るのなら……そうねえ、冒険者としてギルドに所属したら、認めてあげても良いわ」
あれ? そんなことで良いの?
寧ろ、冒険者になる為にギルドにきたのだが……。
ギデオン殿達を見ると、二人ともワシと同じ気持ちなのか、キョトンとした顔をしていた。
「……まあ、そんなこと到底受け入れ「良いぞ」そうよね、良いわよね……良いの!?」
アイリン殿が驚きのあまり口をパクパクさせている。まあ、そんな仕草も何一つ可愛いくないが。
「うむ。そもそも、ワシは冒険者になる為に、この人界にやって来たのだからな」
「ええー……“魔王”が冒険者になりたいってどういうことなのかしら……」
「ワシは冒険者となって、“リア充”を手に入れるのだ!」
ワシは胸の前で両手の拳を握り、力説した。
「何その仕草可愛い! ……いやいや、そうじゃなくて。その、“リア充”って一体何なのかしら?」
「世界の真理だ」
「……違う。女の人にモテること」
ワシが真剣に話しているというのに、ミミ殿ときたら、茶々を入れおって……。
しかもミミ殿、此方を見て良いこと言った見たいな顔で、力強く頷かんでほしい。
「今まで持ってた“魔王”のイメージが一気に崩れちゃったわ……でも、そんなところも可愛いんだけど」
アイリン殿、発言する度に、ちょこちょこウインクしながらアピール入れてくるの、やめてください。
「……ワタシが言い出したんだから、仕方ないわね。じゃあシードちゃん、貴方には冒険者登録をしてもらうわね」
「うむ」
「それと、“魔王”ってことは引き続き他言無用よ。まあ、一番心配なのは、ギデオンちゃんだけど……」
「俺か!?」
「……他に誰がいるの?」
ギデオン殿は信じられないといった表情で、自分を指差す。
だが、それに対して周りの空気は冷ややかだ。
さもありなん。そもそも真っ先に正体を漏らして場を混乱させたのは、ギデオン殿である。
とはいえ、そのお蔭でギルドマスターのアイリン殿が結果的に理解者となってくれたのだから、まあ怪我の功名というやつだ。
「ということで、ギデオンちゃん達のA級への昇格手続きとシードちゃんの冒険者登録を合わせてしちゃうから、ちょっと待ってて頂戴」
「少し良いか?」
「あらシードちゃん、どうしたの?」
「いや、ワシは他の者達と同じように、ギルドの受付で登録の手続きをしてくる」
そう言うと、アイリン殿が怪訝な顔をする。
「うーん、此処で手続きしちゃった方が手っ取り早いし、今の時間帯だと、依頼達成の報告とか素材の買取とかで、受付はかなり混むわよ?」
「構わん」
アイリン殿が益々顔を歪める。
「……理由を聞いても良いかしら?」
「ワシは、先程も言った通り、冒険者となるためにこの人界へ来た。正直、右も左も分からんが、それでも冒険者になるための第一歩は、ワシ自身の手で始めたい。それが理由だ」
ワシは、自分の思いの丈をぶつけた……本当は、受付の女子達に冒険者登録にかこつけてお話してみたいという本音は心の内に仕舞っておく。
すると、アイリン殿は少し困った顔をしてから、一息吐いて苦笑した。
「……分かったわ。それがシードちゃんにとって大事なことなら、これ以上は言わないわ。受付に行って、手続きしてらっしゃい」
「すまんな、アイリン殿」
「……良いのよ。その代わり、シードちゃんにはデートしてもらうから」
「シレッとぶっ込んできたが、ワシは受けんぞ」
「もう! イケズ!」
油断も隙もないとはこのことだ。
何時までも此処にいると、他にも無茶な要求をしてきそうなので、さっさと受付へと向かうことにしよう。
ワシはスックと立ち上がる。
「分かってると思うけど、うちのコ達に変なことしちゃダメよ? ワタシに手を出すのはウェルカムだけど」
ウインクしながら投げキッスを送るアイリン殿を見て、ワシは思わずズッコケた。
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