ツノノユメ

夕浦 ミラ

プロローグ

ツノノユメ

 惑星ウィデオの空は暗い。吹き荒れる嵐に砂塵が舞って黄土色のカーテンに遮られた太陽は暗く黒く、お天道様の恩恵も僅かにしか届かない過酷な環境、緑のない荒涼とした赤い惑星ウィデオが私たちの故郷。だけど、ここは私たちの楽園ではない。吸い込むこともできない危険な空気、吹き荒れる大気、残留放射能など生存不能要素を克服する新人類として造られた私たちキメイルは人間に捨てられ長い戦争の最中にあった。

  

 私は空が好き。あの空のずっと、ずっと先まで行ってみたい。こうして地下の「アナグラ」から出るときは胸がときめく。それが見張りでも偵察でも人間と戦う時でも。

 

 見張りのため地上に出ると嵐が止んでいた。めったにない穏やかな風に吹かれ私は踊るように跳ねて行った。嵐が無い日はあれが見れるかもしれない。見張りの位置に着くと仰向けに寝て空を見る。合成人類であるキメイルは頭部に角が生えている。それは高度な感覚器官で私の場合はこんな風にリラックスした方が遠くまで見通せるのだ。目を瞑るとあれが近づくのを感じた。喜びと期待で瞼が開く。私はそのままうっとりと空を見ながら待ち続けた。ウィデオ特有の赤い空に輝く明星を見つけたとき遠くから空を裂くような轟音とともに白煙を撒き散らす物体が一瞬にして通りすぎた。それは折れ曲がるように進路を変え、高高度へ、空の上へ上へと昇っていった。途切れ、途切れに残ったジェット雲がまるで宇宙へ向かう架け橋のようだった。

 「今日はあんなところまで‥‥‥」

見かけるたびに高く高く翔んでゆくあれが、たとえ人間が私たちキメイルを殺すために造った兵器だとしても、あれに乗って空の向こうへゆけるなら人間と仲良くしたって良い。そんなふうに思っていた。

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