番外編 

怪獣とバレンタイン

「今日のやまとんは、バレンタイン仕様よ~」


 今回のやまとんシリーズはオバチャンでも多恵たえさんでもなく、則子のりこさんが担当している。


「真冬のかき氷! チョコバナナを添えて! 制限時間は三〇分ですよ~ん」


 かき氷というには、いささか強烈すぎるインパクトだ。

 宇治金時にバナナを突き刺したワイルドな見た目は、さしずめ「バナナの角が生えた亀の怪獣」を想起させた。



「私、将来はスイーツのお店をやりたいの。多恵のがんばってるところを見たら感化されちゃって」

 もっとも、店舗ではなくプロデュース業に就きたいのだという。

 それなら多恵さんのサポートもできるだろうとのことだ。


 多恵さんからアドバイスを受けて、この化物は完成したらしい。


「いただきます!」

 

 『食堂 こはる』に現れた冬将軍に、由佳里は果敢にスプーンを差し込む。


 将軍の型が崩れる。

 真ん中のアイスから攻略する気だ。


「んー! おいっしい!」


 宇治金時というか、宇治抹茶がアイスと溶け合ってマイルドな甘さになっているみたい。

 あんこもそれほど甘みが少なく、しっとりしているとか。


「これはスプーンが進んじゃうやつだ」


 

 シャクシャクと氷を攻略しつつ、由佳里は攻めあぐねていた。


 このまま進んでしまっていいものかと。


 温かいお茶を挟んで口を休ませるか、ズンズン進んで一気にカタを付けるか。

 


 それだけではない。一つの懸念材料が。


 バナナをかじったとき、異変に気がついた。


「バナナが凍ってる!」


 冷たさが、歯にダイレクトアタックを仕掛けてきたみたい。

 何か仕掛けがあるだろうと思っていたが、これか!

 僕は見ていることしかできないけど、由佳里が苦しんでいるのはわかる。


 

「ダメだ。美佐男みさおくん、お願い」


 要求が早い。さすがに無茶はできないと踏んだようだ。


 熱いお茶を口に含む。少し冷ましてから、僕は温めになったお茶を由佳里の唇へと流し込む。


 僕たちの新技、「キス変」ならぬ、「ちゅーすい」だ。


 冷たいモノを飲んでから熱いお湯を飲むと、口は休まる。

 しかし、胃は急な温度変化で苦しくなってしまうのだ。腹痛を起こしかねない。


 そこで、常温のお湯ならと思ったのだ。

 

 ぬるま湯なら、胃の中で温度変化も緩くなる。


 危ないことは確かだが、これならまだいけるのではと思ったのだ。


「お~完食しちゃう!」

 

 

「ごちそうさま!」


「あ~ん、やっぱり私じゃまだまだね」



「いいえ。十分手強かったです。またお願いしますね!」



 由佳里は、則子さんと握手をした。



 そうだ。季節はもう、バレンタインなのである。

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