第二章 正義の行方

戦争を求め続けるもの

 小鳥のさえずり

 健やかに伸びる木々がうっそうと茂っている。


 此処は名も無き林だ。


 普通の林と違うのは、緑美しい自然のところどころに、あまりに下品な砲撃の跡があるぐらいだろうか。


 とある王国から狂気、その狂気が終わったとしても世界は未だ混沌から立ち直ることは出来ていなかった。

 新たな国境が引かれたり、消されたり……未だそんなことを繰り返している。


 線劇の爪痕が残るその林に、一人の少女が駆けて来た。

 肩先までかかっているなめらかな金髪、藍色の瞳、純白のドレス……まるで、童話に出て来るお姫様のようだ。


 だが、その美しい容姿は霞んでいる。


 ドレスはところどころ破れ、泥だらけでところどころ血が滲んでいる。息も弾み、肩で息をしている。

 それでも、彼女は地面を這いながら、必死に身を隠す。


 その後ろからこんな声が聞こえて来た。


「逃げんなよ、子猫ちゃーん! おいらたちと楽しい遊びをしようぜー!」


「隊長、あんまりふざけてると雇い主に怒られんぜ?」


「へっ、あんな小娘如きに手こずるかよ」




 実は彼女はとある国の女王様だったのだ。


 何故追われているかは置いとくとして、彼女は一人、護衛の姿も無く、少し押してしまうと折れてしまいそうな花のような儚げな印象を受ける。……これではとても抵抗できそうにない。


 身を隠した彼女は恐怖に涙しながらも、神にこう祈った。


(国民の方々が待っているのです……どうか、私をお助け下さい。どうか!)


 そしてその祈りは――。






 ◇



 その緊迫した状況から、少し離れたところに二人の男女が居た。


 リュックサックに腰を下ろし、二人してサンドイッチを食べていた。


「どう、美味しい?」


「ああ、本当に美味しい」


「……本当? 自分で作った方が美味しいって思わなかった?」


「思ってないって。 それに料理は出来るけど嫌いなんだよ。……なんでだったっけ?」


「なんでだったかな?」


 そうやって、一緒に首をかしげる二人。

 こうしてみると、仲睦まじい美男女青年カップルだ。

 だが、彼らの周囲を見ると、その評論は正しくないと分かる。

 彼らの周りには死体が転がっていた。

 そのど真ん中でピクニックをやっているのだ。


「……しかし、この辺のならず者っぽいのを一掃して来いって、あの依頼主はテキトーなことを言う」


「でも、好きでしょ? そうやって人を殺すの。

 だからこうして傭兵になったんじゃない」


「もちろん……。 

 だが、何か違うんだ」


 と、彼らの上から影が重なる。

 二人は空を見上げる。

 近年開発された空飛ぶ船、飛行船だ。


「凄い、空飛ぶクジラだ。

 どっかの国でああいうのから爆弾を落とす試験をやってるらしいぞ。

 戦争も変わったな」


「誰のせいで変わったと思ってるの?」


「お前が言うな、俺達はただの発端だ。

 皆が願ったからあそこまで大きな戦争になったんだ。

 良いことじゃないか。皆綺麗ごとを達成する為に人殺しをしたんだ。

 口だけの奴らよりはるかにましだ」


「そうかなぁ……」


 と、物騒な会話をしながら、のんびりの空を見上げる二人。

 その和やかな雰囲気が一瞬で吹き飛んだ。


「……3時方向。何かやってるよ」


「ああ、ただ事じゃないみたいだな。

 誰か一人を大勢で追っている……なんてことだ。

 大人数で一人をいたぶるなんて……赦せない。

 状況開始、首を突っ込むぞ」


「もー、殺したいだけでしょ?」



 ジークとエリー。

 世界を狂気に染め上げたたった二人。

 彼らは復讐を果たした。

 だが、それでも……いや、まるで関係なく。



 戦争を求めていた。


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