前線へと飛ばされた劣等生が戻って来た ~弱者は不要と言われたので強くなって復讐しに戻ってきました。 

@flanked1911

第一章 学生生活

第1話 前線へ!

とある学園の学園長室で一人の少年がいた。


平均的な身長、黒色の髪に、黒い目。特徴こそはない、けれども整った顔立ちではあるが、その瞳はどこか自信がなさげで、隠し切れない不安が垣間見える。


 とはいえ、色々と思い悩む思春期を過ごしているような、何処にでもいる普通の少年だ。


……今日この日までは。




とにかく、今、彼は不良行為を怒られているという訳もない。逆に、彼が称賛されているわけでもない。






「……え?」


「もう一度言おう、ジーク君、きみには特別教育が必要だ。

 これは学園のルールだ、従ってもらおうか」



「そんな!?」



 ジーク君こと、ジーク・アルトは学園長室でそう言い渡された。


 特別教育……普通の学校ならば、居残り授業だとか、補習のことをいう。だが、ここリカール王立陸軍士官学校はその名の通り大国リカール王国が誇る士官学校だ。銃と大砲が出回ったばかりの時代、リカール王国は優秀な兵士を育成することに躍起だった。


 その学園のルールとは……。




「物分かりが良くないようだ。

 あらためて説明しよう。

 君には強くなってもらう必要がある。

 これは我々なりの配慮だ、君は戦場に行くという貴重な体験を通して強くなる。 

 素晴らしいことだろう?


 この学園に弱者は不要、分かるね?

 では連れて行ききたまえ」


「まってください、もう一度チャンスを!」


「帰って来てから聞こう」



 必死に弁解しようとするが、複数の教師に羽交い絞めにされてはどうにもならない。

 実際に戦場の前線へ叩き込まれる。 後方配置だとか、安全な戦場で、とかではない。前線へだ。


 ジークは確かに劣等生として学園では有名だった。しかし、一概にそうだとは言えない。まず、初めにこの国には身分制度がある、ジークは一般枠、平民もっと言えば貧民の出。リカール学園は貧民にもチャンスを与えるという素晴らしい理念のもと少数の平民を採用している。そして、人手不足の前線へと叩き込む。




「まさか、ここまでの劣等生になるとはな。

 見下げた男だ、ジーク・アルト」


「さ、サーシャ様」


 サーシャと呼ばれた女。姫騎士のような容姿、学園内のファンも多い。実際、彼女の父は軍の高官、高根の花だ。



「気やすく名前を呼ぶな、貴様のせいでどれだけ迷惑が掛かったと思っている?

 なぁ、ベルモンド」


「ええ、本当に……。

 戦場に行って帰ってくれば、彼も変わるんじゃないですか」


「思っても無いことを言うな」


 ベルモンドと呼ばれた男も……まぁそんな感じだ。男版サーシャ。ちなみに特別教育からの帰還率は0%。




「ふんっ、死んじゃえばいいのよ。のろま!」


「いやーっ、こっち見てる、気持ち悪い!」


「「きゃーっ!」」


 双子のアンナとメイル。

 学園内のファンも多い。


 何故、彼女らが劣等生と関りがあるかというと、パーティを組んでいたからだ。この学園では集団行動を身に着ける為、パーティを組むことが命じられる。その仲間達と様々な訓練に励んでいるのだ。



 彼女らは平民であるジークを勧誘。純粋無垢である彼は感動してその勧誘に飛びついた。


 まぁ、そんな都合のいい話は無く、ただ様々なことを押し付けられてきた。雑用、サンドバッグの役割、模擬戦敗北の責任……。


 身分の高い彼女らが言うのだ、皆、ああこいつは劣等生だなと思い込む。そうすると、ジーク自身も自分が至らないからと思い込んでしまい、結果スランプに陥る。



 実際のところは、皆、純粋無垢な平民を虐めて楽しんでいるだけだ。




「早く死んでこい、劣等生ジーク!」


「のろま野郎!」


「生まれて来たことを謝れ!」


「「弱者は不要!」」


「サーシャ様、ベルモンド様、メイル様、アンナ様!

 もう一度だけチャンスを!」


「おさらばだ、死んで来い」


「「「「「弱者は不要!」」」」」



 弱者は不要、リカール信念ともいえるこの言葉に見送られ、

 ジーク、それに数名の劣等生たちはさも囚人の牢獄のような馬車に入れられ、学園から放りだされた。




「おらぁ! 税金で食ってきた飯は美味かったか!?」


「石を投げてやりな、ジョン!」


「わかった、ママ!」


「おっ、今の見た?俺の石が当たった!

 いやぁ、久しぶりにスカッとしたぜ!」



 国の外、城壁から出る際も、市民達からこんな言葉を、道端の石を投げられる。 当然、暴力は犯罪だが、犯罪者・並びに特別教育を受けるものに関しては犯罪にはならない。むしろ戒めになると、国からは推奨されている。


(そんな、どうして……僕は頑張って来たのに……!どうして……!)


 彼の悲痛な心の叫びは正しい。両親の顔も知らない、記憶がある幼少期は道端の草を食い、低賃金で鉱山労働等の過酷な労働を行い、何とか飢えをしのいできた。そして、いつの日だったか学園のスカウトマンにその生き抜く才能を見抜かれた。



"

「ジーク・アルト、貴様は奴隷身分の貧民であるが、素質はあるようだ。

 特別にリカール学園の門をくぐらせてやろう」


「……本当ですか!? 頑張ります!」


「君がジーク君か、私はサーシャだ。

 君のうわさは聞いている。中々のものだそうじゃないか。

 私は身分差別はしない。よかったら、共にこの学園で栄冠を目指さないか?」


「ぼ、僕なんかが……も、もちろん、喜んでやらせて頂きます!」


「おい、貧民。貴様、私のライフルの手入れを怠ったな」


「ベルモンド様……いやそんな、僕は……」


「なら、何故当たらないというのだ!?

 まさか、貴様私の銃の腕が良くないからとでもいうのか!?」


「ねぇ、その貧民あまりにも使えないからお仕置きすれば?」「ねー」


「そうだな。メイル、アンナ。

 ……ジーク・アルト、これより拷問訓練を開始する」


「ヘッ、見ろよあいつ死にかけのネズミみたいだ」「貧民くさーい」「これがスラムの匂いか」

"


彼は走馬灯のように過去を振り返るが、いい記憶など一つもない。


 彼は人一倍努力した。

 そう、彼はかなり出来るのだ。この銃と火薬の時代、遠距離射撃も、近距離も、果てはナイフ捌きも……かなりできる。絶え間ぬ、血のにじむような努力、そんな彼に言い渡されたのは地獄行き。






 ……尤も、地獄に行くのは彼ではなく、この王国の方であったが。




 この物語は少年、ジーク・アルトが王国の劣等生から王国の最天敵種になるまでの話である。




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