依頼
不意に大和のスマートフォンが振動した。画面に表示されているのは、知らない電話番号。
「もしもし」
『殺し屋兎さん、であってますよね?』
『殺し屋兎』という単語に大和は顔をしかめる。
大和の異名で、いつの間にかそう呼ばれるようになったのだが、大和本人はその異名があまり好きではない。
本名を知られたくないから、と仕方なく許容している。
「……用件は」
『人を殺していただきたいんです』
「依頼か」
大和と橘は、殺し屋の仕事と普通の仕事に分けて2つのスマートフォンを持っており、依頼の電話は殺し屋の仕事のスマートフォンにかかってくる。
『ええ。詳細を送っておきますので、受けていただけるのであれば連絡を下さい。よろしくお願いします』
相手は、こちらの返事を待たずに通話を切ってしまった。
「へぇ。朝早くに依頼だなんて、珍しいこともあるものだね」
「橘さん、どうします?受けますか?」
「詳細を見せてくれ」
スマートフォンに送られてきた詳細には、
「……わかった、受けよう」
「電話しますね」
電話をしようとする大和を制して、橘は緊張した表情でこう言った。
「この依頼、少し用心するべきかもしれないな。何だか嫌な予感がする」
「嫌な、予感?」
「ああ。まぁ、私の勘が外れていたとしても、用心するに越したことはないよ」
「そうですね。こんな仕事をしている以上、いつ自分が死ぬかなんて、わかりませんから」
「死ぬ、か。そうだ。1つだけ、大和君に聞きたいこと、と言うか、個人的な疑問があるんだ」
大和は不思議そうに首を傾げて、何です?と橘を見つめる。
「私たちは、死んだらどこに行くのだろう。そう、思ってね。天国か地獄か、はたまた何もない暗闇か」
「死んではいないので何とも言えませんね……」
その答えを聞いた橘は、そうか、と微笑んでみせた。
「本当に君は昔から変わっていないね。どこまでも真面目で」
「そうですかね」
「とりあえず、受けると依頼人に伝えておいてくれ」
わかりました、と返事をして、大和は先程の番号へと電話をかけた。
『依頼、受けてくださるんですか?』
「ああ。受けよう」
『ありがとうございます!出来るだけ早めにお願いしますね。では』
通話を終了し、大和はどうして他人に依頼してまで人を殺したいのだろうと疑問に思う。
まあ、自分たちはそれでお金を貰っているのだから、どうこう言える立場では無いのだが。
「ほら、大和君。物思いにふけるのもいいけど、まずは仕事だよ」
「あ、すいません」
とりあえずは、目の前のことから片付けていこう。
そう思い、大和は自分のデスクに座ってノートパソコンを起動させた。
メールの通知が数件。それ以外は特に何もない。
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