第1話 仕事

17歳の彼女は上司が拐ってきた子供達を上から見た。怖いよ、と泣き叫ぶ子、ひたすら壁を叩いて抵抗する子、ただ震え続ける子。ここに就職して早2年。どんな子を見てももう可哀想とも思えなくなっていた。彼等はこんなことでしか社会の役に立たないのだ。この国はもちろん、世界の為にもー。改造手術による生体実験に成功してかつてとはかけ離れた姿になった平社員はそう考えてすぐに自分もかつてはそうだったと思い出した。


「やあやあ君たち、こんにちは。私はドキュー。今日は良い子の為のちょっとしたクイズをするだけだからねぇー。君たちはラッキーボーイズアンドガールズだよー。今よりずぅっとカッコいい身体になれるかも知れないからね。」

上司のお決まりの回し文句だ。そうやって子供達を安心させて、その隙に彼等からとある「資源」を奪うのだ。その量は3食分のカロリーとは比べ物にならない。脱水症状で体内の水分を一度に体重の1割奪われたように苦しい。故に採取中に命を落とす者も多い。


その「資源」とは、あまり詳しくは聞いたことは無いが、レアメタルの一種らしく、スマホやテレビなどの画面に使用される。特殊な点はそれが通すブルーライトは学習能力や意力をあげるところだ。だがそれは人間の子供達しか持っておらず、教育通信講座の作成会社である弊社はそれを集める為に子供や若者を拐う。ついでに、「新社員」をスカウトする。私もその中の1人だった。


上司は続ける。

「君たちはお父さんやお母さんに怒られると嫌な気持ちになるだろーう。これからは、もう君たちはそんなことにはならないって知ったら、嬉しいだろ。それだけだから、怖いことはなーんにも無い筈なのに、どうして怖がってるのかなぁ〜。不思議だな、ジェイ。」

「はい、仰る通りです。」

当然だ。「資源」を採取中に死んでしまったら、感情などは無くなるものだ。


1人の子供が暴れ出した。

「ヤダヤダ!帰りたい!お母さんに会いたい!ここにいるの、ヤダ!」

無論、上司がそれを聞き逃すことは無かった。

「うらぁー!そこのクソ餓鬼!何泣き喚いている‼︎こっちは何も酷いことはしないぞ!お前が言うことを聞かない限りな‼︎」

かなりの剣幕で、思わず目を瞬いてしまった。続いて、他の子供たちも泣き出した。

「あー、ごめんよ、驚かせちゃったな。でもお利口さんにしておかないと、良いことは起きないよ。」

しかし彼らは静まらない。

なだめるのを繰り返す内に、ドキューの怒りは心頭に達するところだった。

「あー、もう、貴様らは…」

「そこまでだ‼︎」

上司は怒鳴るのも忘れてその声を探して、見つけた。


黒と黄色と白のスーツを着た3人が現れた。手にはスマホのようなものがあるのだが、少し大きめのナイフを持っているかのような持ち方だ。

彼らを見てハッとした。こいつらが私たちの仕事の邪魔をする、確か名前は和光人(わこうど)戦士、マホロバンだった筈。黒の男はドキューの手を振り払いそこから落ちたものを踏み潰した。

「しまった!簡易チャイルドニウム搾取機が!貴様、弊社の業務を邪魔する気か!」

「ヘェ〜、子供達の元気を奪うのが仕事って、あんた趣味が悪すぎねっ♩」

黄色の女が上司を煽った。にしても、どこかで聞いたような声…。

「だから仕事だって言っただろ!君はメモすることも出来ないのかね!!」

「先輩、子供たちを囲んでいた防音バリアが何者かによって破壊されました!このままだと泣き声が屋外に漏れて大勢の人が集まってきてしまいます!」

やや無機質な声が人造係長の耳に入った。それに続いて他の社員も駆けつけてきた。

「お前ら、ボヤボヤするな!ここにいる全ての人を黙らせろ。」「「「はいっ」」」


掛け声が聞こえたかと思うと、平社員たちはマホロバンの3人を自らの爪でで殺そうとした。ところがさっきのスマホがガラケーみたいな形状になっていて、爪はあっというまに使い物にならなくなった。そして真っ二つ、ではなくて腹部にある機械を壊されて「戦闘不能」になった。子供たちは「頑張れ〜!!!」と叫んでいる。

白と黒(白のスーツは所々にピンク色のラインが引かれているが、声が明らかに男性のものだった)がドキュー部長を倒そうと携帯を彼に向けた。彼らは武器のボタンを押して、攻撃パターンを変えたようだ。「ヌンチャクモードに変更しました」というアナウンスはそれをジェイたちにも伝えた。2人が掛け声を合わせて指標を狙ったが、躱された。しかしながら何回か当たったらしく、その都度苦しそうに唸った。もう一度攻撃を試みる2人。それは意外な形で止められた。


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