勇気を出して少女は幸運好事の先へ行く

 朝、テレビの星占いを見ていたら、私のラッキーアイテムは「リボン」だった。

 でも今日はリボンって気分じゃなかったから髪を下ろしたまま学校に行った。

 そもそもリボンは校則違反だから付けられないんだけどね。


 ――その日はラッキーアイテムを無視したせいなのか、気になっている彼と何も絡むことができなかった。


 翌朝、テレビの星占いを見ていたら、ラッキーアイテムは「犬」だった。

 なにそれ!学校に持っていけないよそんなの!

 占い師さんは高校生のこと考えていないのかな!と怒りたくなったけど、リビングの中をキョロキョロしていたら、お母さんが鍵に付けてるキーホルダーが招き猫だった。

 犬と猫は同じペットの仲間だから、少しぐらいは効果があるかも!

 ちょっとボロっちいけど、これでいいか~と思って、カバンに招き猫のキーホルダーを付けて登校した。


 教室に入ると、いきなり背後から声をかけられた。

「あ、招き猫じゃん!それ可愛いな!」

「えっ?」

 声の主は気になっている彼だった。

「オレ、猫好きなんだ」

 ラッキー!今日はいきなり彼と絡めた!

 でも猫好きってことは、占いで言ってた「犬」って間違ってない?


「もしかしてお前も猫好きなの?」

「……うん」(ホントは普通だけど)

「だったらさ、オレんちの猫の動画、見てくれよ!すっごいからさ!」

 彼はそう言って私に猫の動画を見せてくれた。

 彼の言う通りすっごく可愛くて癒やされた。

 もっとこの時間が続いて欲しい……。

 なんてことを思いながら猫動画を見ていたら、彼の友達が集まって来てしまい、二人だけの時間は終了。


 ――でも「犬」と「猫」の違いだけでこの効果!

 もしかしたらラッキーアイテムをその通りに持っていったら、もっとすごいことになっちゃうかも!


 翌朝、テレビの星占いを見ていたら、ラッキーアイテムは「伊達メガネ」だった。

 うーん、これなら学校にも持っていけそうだけど、度が入ってるメガネしか持ってないよ!

 まぁ、いいか。信じてみようか。

 家を出る時、いつもはコンタクトなのに今日はメガネをかけていたので、お母さんが不思議そうな顔をしていたけど、気にしないで学校に向かった。


 教室に入ると、いきなり背後から声をかけられた。

「あれ?イメチェン?」

 声の主はあの彼だった。さっそく声をかけてくれるなんてすごいよ!

「うん。なんかコンタクトの調子が悪くて……」

「へぇ~いつもはコンタクトだったんだ」

 彼は顔を近づけて、私の目を見た。

「でもメガネもいいじゃん」

「えっ?」

「……二度も言わせるなよ」

 彼は照れくさそうにどこかへ行ってしまった。


 ――なんだか物理的に、すごく距離が縮まっちゃったよ~。

 目を見られてから、しばらくドキドキが止まらなかった。

 もしこれがラッキーアイテム通り「伊達メガネ」だったら、どこまで縮まっちゃってたんだろう?


 これはもう信じるしかないよね!

 次はどんなラッキーアイテムが出るのか、ますます期待が高まっていたんだけど……


 なんと翌朝は土曜日!もちろん次の日は日曜日!

 そして待望の月曜日の朝!私はドキドキしながら星占いの時間を待った。


 ――それなのに……いつもの時間に星占いは流れなかった。

 なんと驚いたことに、いつも見ていた番組は、先週末で終了していたことが判明!

 しかも今やってる新番組では、登校ギリギリの時間になっても、占いのコーナーが始まらない。

 もはや限界というころまで粘ったけど、結局占いコーナーが始まらなかったので、私は急いで家を出た。


 それからは、もう大変だった。

 風が強くてなかなか前に進めないし、電車は遅れるし、駅につくと同時に、学校に向かってダッシュしていたらローファーが脱げるし……。

 もうホームルームが始まる時間はとっくに過ぎていて、完全に遅刻だった。


 脱げたローファーを取りに戻って履き直し、肩を落としてトボトボ歩いていたら、いきなり背後から声をかけられた。

「あれ?お前も電車組?」

 そこにいたのはあの彼だった。

 彼は私のところまで駆け寄ってくれた。

「巻き込まれたのはオレたちだけか」

「みたいだね。……もう授業始まってるよね」

「完全に始まってるな」

 彼は腕時計を確認した。

 そして照れくさそうに、顔をそむけながらこう言った。

「だったらさ……いっしょにサボろうぜ」

「えっ?」

「なんかお前、元気なさそうだからさ」

 ……あ、気付いてくれてたんだ。

 私、今日、ぜんぜんラッキーじゃなかったけど、今この瞬間、最高の幸運が訪れたよ。

 だからここから先は……

「ありがとう」

「よし!じゃあサボるか?」


 ――私は彼のその言葉に、笑顔で首を横に振った。

「ううん、2時間目には間に合うから」


「だからさ、一緒に行こう」

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