恋するうさぎとムーンダンス

 夜は言葉が踊ってしまう。

 書きたいことがいっぱいありすぎて。

 あ、でも今はスマホだから「打ちたいこと」かな。


 ベッドに寝転んで、アプリを起動して、送る相手を選んだら、文字を打っては消して、打っては消しての繰り返し。

 しばらくそれを繰り返すと、送るに送れなかった言葉たちが、溜まりに溜まって抑えきれなくなっていく。

 そうなったらもう勢いは止まらない!


 私の指先はうさぎのようにぴょんぴょんステップを踏みながら、入力欄を埋めていく。

 そしてあっという間に、想いがたっぷり詰まった、びっしりすっごい長文のできあがり!


 でもそれは送らない。

 朝起きて、もう一度読み直して、恥ずかしくなったら全消去。


 読み直して、恥ずかしくなかったとしても、送らない。

 だってまだ届けたくない想いだから。


 ――結局私は何も送れないまま、今日も一日、打ちたい言葉をいっぱい溜めていく。




 【後日談】

 ある夜、びっしりの長文メッセージを打ち終えたところで、寝落ちしちゃった。

 幸せな夢を見たなぁ。あの人と一緒に笑いあってる楽しい夢。

 どうしても触れたくなっちゃって、ほっぺをツンって、何度も押しちゃったよ……。


 ……って、なんか固いぞ!?

 はっ!と目が覚めたら、指先でスマホの「送信ボタン」を押してた。


 固いと思ったのは、ほっぺじゃなくてスマホの画面だったんだよ!!

 送信時間を見ると10分前。しかもすでに既読。

 取り消そうにも、しっかり読まれてしまったあとだった。


 頭の中が真っ白になってたら、急にあの人から返事がきた。


 そこには、たったひとこと――「届いたよ」って。


 私はたまらずベッドから飛び降り、月明かりがさす部屋の中を跳ねまわった。

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