第35話 三人ともう一人

「で、ここが……カントの家でこっちはガラルクの家でこっちは……」

「あの、ミハルちゃん……」

「……気安くちゃん付けで呼ばないで。私のことはミハルさんもしくわミハル様と呼びなさい。」

「……ミハルさん。さっきから知らない人の家を延々と紹介されてるんだけど……」

「そうね……長老様に村を案内してくれって言われたからね。」

「なんていうか……俺この村に住んでいる人達のこと知らないし……はっきり言ってつまらないです。」

「……」


 やべー……怒ったか?


「……確かに言われてみればそうね。」


 ……言われなくても気がつけよ。まあ、理不尽に怒られないだけましか。


「じゃあ、そうね……あの場所とかいいかな。」

「あのばしょって……あのばしょのことお姉ちゃん?」


 あの場所というのは一体……なんかちょっと怖いな。


「……着いてきて。」

「あ、ああ……分かった。」






「ここは……一体。」

「……そんなの森に決まってるじゃない木がいっぱい生えてるんだからさ。」

「いや、そういうことじゃなくてだな……」

「まあでも、ただの森じゃないわ。」


 そう言うとミハルは指笛を鳴らす。するとどこからともなく白いカラスのような鳥がこちらに飛んでくる。


「こ、これがあの有名な神獣ってやつか?」

「そうだよ。やっぱ村の外の人達にとっては珍しいだね。」


 白いカラスたちは俺の周りによってくる。洗い立てのシーツのようにのように美しい羽だ。こんなにきれいで神秘的な生き物がこの世にいるなんてな……どうやらここに来て正解だったみたいだ。


「この村の人達はみんな神獣を自由に操られるって聞いたけどもしかして君も?」

「いや、私はこうやって指笛でガルタを呼ぶぐらいしか出来ないね。」

「それでも充分すごいと思うんだけど……」

「でも、すごい人は神獣を操り人形みたいに操れるんだけどね……リアとか。」

「え、リアって……この子のことだよね……」


 こんな幼い子がギアを……


「みてみて、ミハルおねえちゃん。」

「ん?なんだ、リア?」


 俺もつられてリアの方を見てみるとリアが自分の指に蜂のような虫を自分の指にとまらせていた。


「むむむ……」


 リアが深く集中して蜂を見つめる。すると蜂はリアの指の周りをぐるぐると回り出した。


「おお!!すごいじゃなんリア!!」

「エッヘン!!」

「……」


 これが噂の『ギア』ってやつか……でも、なんか思てったより……


「……おい、レンジ。今あんたなんか思ってたよりもしょぼいなとか思ってないでしょうね。」

「え、いや……」

「しゃいてえ……」

「ええ……」


 いや確かにそう思ったけど……そこまで言うことはないんじゃないか?


「……今なんか変な音聞こえなかった?」

「いや……俺は別に聞こえなかったけど。」

「……しっ!!」


 ミハルは聞き耳を立てるそして……


「……!!」


 ……聞こえた。確かにしげみが揺れる音が聞こえた。正直俺にはここら辺の動物がしげみの中を移動した。


「そこ!!」


 ミハルが雷魔法をしげみに向かって撃つ。


「い、痛!!」


 痛がる声と共にしげみの中から一人の人……いや、人じゃない。皮膚が僕らと違いとかげの鱗でおおわれている。間違いないこいつは……竜人だ。


「あなた竜人?ここは村の人以外立ち入り禁止だってこと分かってる?」

「……い、いや……」

「え、じゃあ俺がここにいるのってまずくない?」

「あんたはいいのよ。お客さんなんだから。」

「そ、そうか……」


 ……本当に大丈夫なのか?


「あなたは……お客さんじゃないわよね。竜人のお客さんがいたらさすがにわかるもの。」

「……」

「あなたなんでこの森に……もしかして密猟……」

「ち、ちがう!!俺はその……写真!!このカメラで写真を撮ってただけなんだ。」

「……カメラ?写真?」


 そう言うと竜人は俺達にカメラ?という機械を見せる。


「見たことない機械だけど……どうやって使うんだ?」

「ええっとだね……まず、撮りたい対象をこのレンズって言うカメラの真ん中にある丸い部分を向けるだろ。そしてこの上にあるボタンを押すと……」


 竜人の男がカメラの上部分にあるボタンを押すと下部分の隙間から一枚の紙が出てくる。


「……な、なんだこれ!?」

「すごおい!!」


 その紙には驚くことに目の前にある光景が写されていた。『そのまま』というのは誇張表現でも何でもなく本当に目で見た景色がそのまま紙に写されているのだ。


「これが……写真ですか。」

「そ、それで僕はこの写真をいろんな場所で撮って生計を立ててる写真家ってこと。」

「写真家……」


 写真家……もちろん聞いたことがない職種だ。カメラがあるアルバトラ特有の職業なのだろう。


「で、その写真家さんは村の人達に許可も取らずこの写真っていうのを撮りまわってるって言うわけですか……」

「……その通りです。」

「ふーん……」

「どうしても……どうしてもここの美しい光景を撮りたかったんです!!……でもこうなってしまった以上仕方ありません……僕はどんな罰でも受け入れます。」


 どんな罰でもって……確かに無断で森に入るのはよくないことではあるが、この竜人は少し大げさすぎる気が……


「『どんな罰でも受け入れる』ねえ……」

「あ、ああ……」

「……」


 ……あれ?なんかただ事じゃない空気が漂ってる……もしかして無断でこの森に入るのは俺が思っている以上にまずいことなのか?

 

「まあ、私も鬼じゃないしあなたも一応反省してるみたいだし村の人達には黙っててあげないこともないわ。」

「ほ、本当かい!!じゃあ……」

「ただし!!」

「……!!」

「ただし……私が言う条件をのんでくれたらだけどね……」

「じょ、条件……ですか。」

「そう、その条件は……」







「す、すごーい!!本当に目で見たまんまの景色が紙に描かれてる!!」

「すごいすごーい!!」


 ミハルとリアは竜人のカメラを使ってそこらじゅうを撮りまくっている。


「あ、あの……大事に扱ってくださいね!!」

「分かってるっての!!今度はあそこにいるマガンザル撮りにいこ!!」

「うん!!」


 それにしてもミハル……さんのやつ何が『条件がある』だよ。ただカメラ使いたいだけじゃないか……。


『ワオーン!!』

「いまのこえ……アカゲオオカミのとおぼえ!!」

「結構近いな……よっしゃこ撮り行くか。」

「おいおい、オオカミを撮りに行くって……それって危険じゃないか?」

「大丈夫よ、アカゲオオカミは肉食だけど魚しか食べない安全なオオカミだから。」


 魚しか食べないとは中々に珍妙なオオカミだな……


「それじゃあ……元気出して出発!!」

「おお!!」


 二人はそのまま森のの方へ向かっていく。


「レンジあんたは行かないの?」

「俺は……この森まで歩くのに疲れたししばらくここで休んでいくよ。」

「そう、分かった。」

「……おにいちゃんはいかないの?」

「ああ……悪いな。」


 二人はそのまま森の奥深くに消えていった。


「君も彼女と一緒に行かないのかい?」

「え、いや……まあ、別に俺はいいかなって。」

「そうかい、じっと二人のこと見てたから君も一緒に遊びたいのかと思ったんだが……」

「……」

「……俺がこんなこというのもなんだが、友達と一緒に子供はいっぱい遊んだ方がいいぞ。」

「いや、あの二人は別に友達じゃないんですけど……」

「そうなのかい、じゃあ今からでも友達になったほうがいい。子供のころのうちに友達はたくさん作るべきだ。子供の頃からの友達っていうのは将来かけがえのないものになるんだからな。」

「……そういうものですか?」

「ああ、そういうものだ。」


 友達……か……俺には友達と呼べる存在はいない。俺の親父は王国で10本の指に入る魔道士だ。おれはその輝かしい地位をもつ親父の息子ということもあって俺の周りにはいつも勝手に周囲をうろちょろしてくる奴らはたくさんいた。だが、俺はそんなこざかしい奴らと友達になりたくない。そう思ってたから俺には今まで友達という存在を作らなかったし、これからも作りたいとは思わない。


 でもこの男は……この竜人は友達は作るべきだと言った。その言葉は俺にとってかなりむかつく言葉だった。だってこれじゃあ……俺がかわいそうなやつみたいじゃないか……


「あの、お言葉ですけど……」


 僕が彼の言葉に対して何か言い返してやろうと口を開こうとした……


「きゃあああああああ!!」

「……!!」


 そう……しようとしたのと同時にどこからともなく悲鳴が聞こえてきた。


「今のはミハル……さんの声!!」


 今の悲鳴ただ事ではない。今すぐにでも向かうべきだ。そう思い至り俺は悲鳴がした方へとダッシュする。


「……なに!?」


 僕がダッシュで向かったその先……その先にいたのはミハルとリアそして……一匹のオオカミ。そのオオカミは今にもミハルとリアを襲わんと二人をにらみつけていた。


「ど、どうした何があった!?」

「わ、分かんない……アカゲオオカミが急に襲いかかってきて……」

 

 ミハルはさっきアカゲオオカミは大人しいから人を襲わないと言っていた。だが、この状況から見るにこのオオカミは大人しいとはほど遠い。


『ぐるるるる……ぐおおおおお!!』

「……きゃっ!!」

「ミハル!!リア!!」


 アカゲオオカミが二人に襲いかかる。躊躇している場合じゃない。


「ブレイズ!!」

『きゃうん!!』


 俺はオオカミに向かって魔法を放つ。魔法はオオカミに直撃するが13歳の少年である俺ごときの魔法ではひるませることは出来るが致命傷には至らない。


『ぐるおおおおお!!』

「きゃあああ!!」

「……リア!!」

 

 オオカミは負傷しよろめきながらもリアに襲いかかる。


「り……リアを離せ!!」


 今度はミハルがオオカミに魔法を放つ。オオカミはその魔法を避けず全て受ける。


『ぐ……ぐうう……』

「こ、こいつ……まだ倒れないのか……」


 オオカミは俺とミハルの魔法を一身にうけて見るからにボロボロだ。それなのにこのオオカミは……何が何でもリアに食らいつこうとしている……


「おね……ちゃん……た、たすけ……」

『ぐおらあああ!!』

「リアああああああ!!」


 くそ……くそ!!






 

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