第33話 戦う
僕が戦うか逃げるかを決めあぐねていたとき、ついに……奴らは僕達の前へと現れた。
「来たか……!!」
「こいつらが……」
「人間の皆さんこんにちは。あなたたちは今まで竜人達に拉致され奴隷のように働かされていたのでしょう……でももう安心してください。私達があなたたちを助けます。」
……こいつ、どこかで見たことがある。確か魔幻隊のやつだったっけか……。ということはこいつらは魔幻隊なのか……!?数はそこまでいあないみたいだがあの最強とも名高い魔幻隊……これはさすがにまずい……僕はミハルにこいつらが魔幻隊であることを伝えようとする。
「ミハルさんこいつらって……」
が、俺はミハルの表情が変わったことに気がついた。
「レ、レンジ……まさかあんたのとこの部隊だったなんて。」
知り合いなのか?……そういえばさっきの本に挟まってた写真……あそこに写っていた男。印象はかなりちがってはいるがどことなく似ている。どこかで見たことがあると思っていたがこいつだったのか……。
「ふっ……やっぱりいたか。」
レンジという男は不思議なことにミハルの姿を見てもあまり驚いてはいない。
そしてもう一人聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「嘘、ミハルお姉ちゃん……ミハルお姉ちゃんなの!?」
その声の主は……リア!?リアが何で魔幻隊の奴らと一緒にいるんだ!?
「リ、リア!?なんで?」
ミハルもかなり動揺している。
「お、なんだ?知り合いだったのか?いやあ、ひどい偶然もあるもんだ。……リア分かってるな。こいつもさっきのやつらと同じ、竜人達に操られてるんだ。」
「『操られてる』……?リア、そいつの言うことを聞かないで!!私は操られてない!!」
「洗脳されてる奴はみんなそう言うんだ。じゃあ、なんだ?お前は竜人と何をやってるんだ?竜人は俺達の駆逐対象だぞ。……まさか一緒に暮らしてるとかじゃあないだろうな?」
「……そうだ。私達は互いの種族関係なく平穏に暮らしている。」
ミハルは一切ごまかそうとはせず正直に話した。おいおい、それを言うのはさすがにまずいんじゃないか……?
「ふっ……はははは!!本気で言ってんのかよお前…………。」
「……」
「……ふざけてんじゃねえぞ!!」
さっきまでヘラヘラしていたレンジの口調が突然荒っぽくなった。
「てめえ、自分が何言ってるのか分かってんのか?その発言は王国に対する裏切りだぞ!!そんなこといってただですむと思ってんのか?」
レンジの怒りのボルテージがマックスになっている。
「いけない、少し取り乱してしまった申し訳ない。だってあんたらは操られて、仕方なくここにいるだけなんだもんなあ?」
どうやらレンジはここにいる人間(猿人)達が操られてるってことにしたいらしいな……
レンジは言いたいことを言い終えるとそっと自分の右手のひらを俺達の方へと向ける。何か魔法を出すつもりだろうか?
「今からお前らに催眠解除の魔法をかける。これでお前らは自由の身だ。」
催眠解除の魔法?かけられていないものをどうやって解除するんだ?そう思っていたが、レンジが指をならした瞬間……
「ぐ、ぐおおおお!!」
「う、うわああああ!!」
突然周りの人達が発狂しだす。だが、全員がそうなっているわけではない。
「おい!!どうした!?」
「しっかりしろ!!」
竜人達は苦しんでいる様子はない……村の人間(猿人)たちにだけレンジの魔法がきいているようだ。
「どうだ……催眠は解けてきたかお前ら?」
「……は、はい」
村の人間(猿人)達がうつろの目になりレンジの方へとゆっくり歩いて行く。……これはどう考えてもおかしい、もしかして催眠魔法か!?催眠を解くとか言っておきながら催眠魔法かけてるのかよ……
「おい、エイギルどうしたんだ?おい、おい!!」
このままじゃまずい。なにか打開する方法はないのか……何か……何か……
「……何、馬鹿なことやってるのレンジ?」
……そう言い放ったのはミハルだった。ミハルは自分の指をパチッとならす。すると、さっきまでレンジの方に歩いていた村人達はピタリと足を止めた。
「あれ?何やってたんだ。俺達……」
「記憶が少し飛んでる……」
どうやら、みんなは正気に戻ったみたいだ。でもどうやって催眠を解いたんだ……
「禁断魔法『腑抜け』《ミッシング》……何が『催眠解除の魔法』よ、ふざけないで!!」
「……まさか禁断魔法が無効化されちまうなんてな。」
「たまたま、無効化できる魔法を知ってたってだけよ……」
禁断魔法を無効化?そんなの聞いたことも見たこともないぞ!!……もしかして、ミハルって俺が思ってる以上にすげえ奴なのか?
「……本当に操られていないのですか?お姉ちゃん……何も言わずに突然村から出てまさか、ここで竜人達と暮らしていたなんて……」
「リア……」
「なんで?なんで何も言ってくれなかったんですか!?なんでなにも連絡してくれなかったんですか!?ずっと、ずっと心配していたんですよ……」
リアは……4年前、身内に次から次へと不幸が起き、ずっとつらい思いをしていた。そしてついには呪いの少女と呼ばれるまでに……そんなとき姉と呼べる存在が身近にいたら、どれだけ気持ちが楽だっただろうか……
「ふっ……ふふふ」
レンジはほくそ笑んでいる。
「何がおかしい!?」
「大人しく操られたふりをしてればお前らは助かったってのに……妹を悲しませることともなかったのに……選択を誤ったな。ミハル。」
「なに?」
「……やれ」
「え?」
「うおおおおおお!!」
レンジの半ばフライングじみた突撃命令に村の人達は皆、驚く。その隙を突かれ魔幻隊は一気に突撃してくる。魔幻隊は竜人だろうと人間(猿人)だろうと見境無く攻撃してくる。
「止めてください!!レンジさん!!」
「なんだ?リア……こいつらは王国を裏切ったんだぞ。」
「でも、この人達は……私達と同じ……」
「何いい人ぶってんだよリア、お前だって竜人を何人も殺してきたんだろ!?今更命を奪うのをためらってんじゃねえぞ!!」
「……」
リアはその場から動こうとしない。やはり、ミハルと敵対することに……人間(猿人)を殺すことに抵抗があるのだろう。
「ちっ、戦意喪失しちまったか……。まあいい、てめえにはまだ使い道がある。……っていうか元々こっちが目的だったようなもんだからな。」
「……え?」
「リア!!レンジから離れて!!」
ミハルはリアにレンジから離れるように促す……が、一足遅かった。レンジはリアの首元に刃物を突きつける。
「レ、レンジさん!?」
「動くんじゃねえぞリア。お前は大切な人質なんだからな。」
「ひ、人質!?」
おいおい、何だってんだよこれ……いろいろなことが起こりすぎだろ。
「レンジ……リアを離して!さもないと……」
「怖い顔すんなよミハル……別に殺したりはしねえよ。俺が出す条件さえのんでくれたらな。」
「条件……?」
「ミハル、てめえと一度ちゃんと話がしたいこっちに来い。」
「……」
「分かってると思うがてめえに拒否権なんてねえぞ……」
「くっ……」
ミハルはレンジの言うことに従うしかなかった。ミハル、レンジ、リアは深い霧の中、森の奥へと消えていく……
「おいあんた!!前から来t……」
「……!!!」
竜人の男が僕に何か伝えようとしたが言い終える前にはじけ飛んだ。僕はすぐに防御態勢に入る。敵はものすごい数の魔法弾をはなってくる。周りはもうすっかり戦場と化している。
僕が、僕がとるべき行動は……僕は必死に考える。……だが、僕の足は考えるよりも先に動いていた。僕の足は、リア達がいる方へと駆けだした。
「おい、お前!!どこに行くんだ!!」
背中から村人達の冷たい視線を感じる。そりゃそうだ。端から見れば僕は戦場から逃げているようにしか見えない。もう彼らの村には戻ることが出来ないだろう。
ごめんなさい、ごめんなさい……何度も心の中であやまっても謝りきれない……けど、俺はリアを……友達を放ってなおくわけにはいかないんです……
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