ネコが死んでた。

あおいしょう

仕事の帰り道、うわっ、ってなった。

 ネコが死んでた。

 仕事帰りの道で。草とかツタとかが地面にはびこってて、どうなってるのかよくわからないそこに、ネコが横たわっていた。

 最初は日向ぼっこして寝てるのかな、くらいに思ってたボクは、もう少しその猫に近づいてじっくり見てみたんだ。

 そしたらそのネコは口を半開きにしてる状態で固まってた。

 そうと思いたくなかったけど、やっぱり死んでた。


 イヌとネコとどっちが好きか? 論争ではどっちも好きと答えるボクだが、こういう場合、どうすればいいのだろうと少し悩む。

 もちろん、どこかに埋めて供養してやれるのが一番だろう。

 だけど、勝手にネコを埋めてもよさそうな場所が近くにはない。

 どこも、誰かの畑とかそんなんだから。


 とは言え、埋められる場所があったとして、ボクには時間がなかった。

 帰りのバスが来るまであと十五分ほど。しかもそれを逃したら二時間待ちという田舎っぷりなのだ。


 とは言え、埋められる場所があって、時間もあったとして、ボクは果たしてこのネコを埋めてあげただろうか? と自問自答する。

 たぶんしないだろう。

 その時もそうだったけど、単純に、できれば触りたくない、って気持ちと。

 きっと近所の人が埋めるなりなんなりしてくれるだろうと楽観的に考えていたから。


 でも次の日も、そのこはそこにいた。やっぱり口を半開きにしたまま固まっていた。

 耳につけたイヤホンでノリのいい曲を聴きながら、気持ちは暗くなって、何もできなくてごめんね、と通り過ぎる。


 その後、祝日と定休日で二日間、仕事は休みだった。

 新型コロナウィルスの影響で、みんなが出勤できないでいる状況で、毎日出勤しなければいけないうちの会社。食品関係だからね。しょうがない。

 だから、その二日間をありがたく感じながら、二日、ネコの死体のことは忘れて休みを楽しんだ。


 二日休んで、出勤の日だから家を出て、バスに乗って、職場まであと五分ってところのあの場所。

 さすがにもういないだろう……、と甘く考えてそこまで来たら、やっぱりそのこはまだそこにいて。


 ここの近所に住んでる人は、片づけてあげないのかな……と、たぶん自分だって片づけられる状況があっても片づけないくせに、そんなことを思う。

 そして、よく考えたら、最初にいた場所からちょっとズレてる気がする。一メートルくらい。

 なんでズレてんの? 誰かが動かしたの? 誰か……人間が動かしたんなら、片づけてあげてよ。とか、思って。

 それとも、他の動物が、そのこをガブガブしたついでに引っ張ったのかなとか考えて。


 帰りに、カラスがそのこをついばんでた。

 ボクが通りかかったら、飛んでどこかに行っちゃったけど。

 ボロボロになっていくなぁ、と。どこか他人事に思い始めて。


 土曜日休みで日曜出勤。

 道中、スマホにダウンロードしたばかりの『ネコが愛しすぎて、家を壊されても破産しても猫が幸せなら問題ない!』ってテーマの歌を聴きながら、あのネコ、いなくなってるかなぁ、いなくなってないだろうなぁ、と思いながらバスで揺られる。


 やっぱりまだいて。

 ちょっと直視できない惨状になってきていて、ニオイも少しあるような気がする。

 ネコなんだけど、慣れてきてしまっているのか、もうそれがネコと思えなくなっているのか、可哀そうって気持ちが、なんだか小さくなってきている気がする。そんな気もするのに、ものすごく悲しい気もする。


 同じような気持ちを抱きながらの帰り道。

 ゴールデンウィーク+定休日で四日休み。

 その休みが明けた後、あのこはどうなってるんだろうと思いながら。


 今よりもすごい惨状のままそこに残っていたら、ボクは何を感じるだろうか。とか思いながら、特にモノがのどを通らないとかならずに、普通に自販機でコーヒーを買って飲んだ。




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