第4話 戦隊ヒロインと超絶人気アイドル

 菜花は何故か俺の隣の席にちょこんと座った。


 目立たないから、気にならないけど。


 それからの数分間は俺にとって居心地が良かった。


 2人の女子とのお喋りタイム。




「やだなぁ、勇くん。同じクラスなのに私のこと知らないなんて……。」

「あははははっ。俺、ぼっちでさ、誰とも関わらないようにしてるから」


 菜花は思ったよりもはなし易い子だった。俺はつい菜花とばかりはなしてしまった。


「ちょっとトイレ行ってくる。ゆっくりしててね、菜花。ゆ・う・く・んもっ!」


 リーダーが変な気をまわしたのか、席を立った。


 そうなると同じ側に男女で並んでいると、ちょっと恥ずいな。


 それは、菜花も同じだったようで、顔を赤らめている。


 地味にかわいい。そのうちに何かに気付いたような仕草をして言った。




「あっ。私、反対側に行くねっ!」

「おっ、おう。そうだな。その方が自然だよな」


 菜花は席を立ち、反対側に座り直そうとした。


 その途中、自滅した。勝手に転んだんだ。




 だから、俺は見てしまった。




 うすめの緑の生パンティーを。




 それで分かっちゃった。


 ただの地味な子だと思ったのに、超絶人気アイドルじゃんかーっ!


 はぁ……。




 俺の周りには普通成分が不足しているらしい。


 でもまさか、こんな地味な女の子が世界的に活躍している山吹さくらだなんて。


 俺は他のアイドルを推している。山吹さくらには見向きもしないで生きてきた。


 その理由はただ1つ。山吹さくらが高嶺の花だからだ。


 絶対に手が届かないところにいるような気がするからだ。


 月に数億つぎ込んでる中国筋・中東筋の大富豪が推し合戦をしていると聞く。


 一般庶民には推せないほどの神なのだ。


 でも、こんなに近くにいるのなら、そりゃ手も出したくなるよっ。


 だが、痛恨事。俺は菜花に手を差し伸べるのを忘れてしまった。


 菜花は自力で起き上がり、たった今着席した。


 せめて優しい言葉だけでもかけてやらんとな。




「だっ、大丈夫? さくら、っじゃなくって山吹、っでなくって、菜花さん……。」


 ややこしい。山吹さくらの本名が佐倉菜花だなんて。


 つい、言い間違えちゃったよ。


 そのままさくらで通せばいいものを言い直そうとして自滅。


 山吹って口走っちゃった。これは拙い。


 俺は目を瞑り、菜花の方に顔を向けた。


 神様、お願いです。


 どうか、俺が菜花の正体を知ってるってことが、バレてませんように!




 そして、恐る恐る目を開けた。


 するとそこには、瞳に涙を一杯に溜め込んだ女神がいた。


 俺の願いを聞き届けにきてくれたんだろうか。嬉しい。


 少なくとも、俺の目は喜んでいる。


 だが……。




「どうして、分かっちゃったの、勇くん……。」

「えっ?」


「私、もうダメ。山吹さくらがこんなに地味な子だって知れたら生きていけないわ」


 俺が菜花の正体を知っていることは、完全にバレていた。


 はぁ……。




「……。」

「勇くん、お願い。私と一緒に死んでっ!」


 地味だ。一緒に死んでって、とっても地味だ。


 それでいて尊く美しい言葉だ。


 だが、俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。




「大丈夫。俺、口だけは硬いからっ」

「そっ、そう。でも……。」


 疑っている。完全に俺のこと疑っている。


 一緒に死ぬ気満々って顔してる。


 まるで、とっても地味でキュートな死神みたいだ。


 でも、どうしよう。死にたくないよ。


 せめて1回やらせてくれれば別だけど……。




 そんなことを思っているうちに、救世主、リーダーが席に戻ってきた。


 どうやら本当に用をたしていたみたいだ。


 戻ってきてくれて、ありがたい。




 キュートなのは捨てがたいけどね。


 でも、それでいい。リーダーはキリリと言った。




「菜花、お金は明日返すね。勇くん、じゃあ行こう!」

「待って!」

「えっ?」


「どうしたの、菜花……。」


 その待っては、かとう名人の『待った!』よりもハッキリしていた。


 だから俺もリーダーも狐に摘まれたようになってしまった。


 菜花は地味に言葉を続けた。




「私も一緒に行きたいわ。お金は全部出すからっ! はぁ……。」


 どうやら俺は、地味な死神からは逃れられないのかもしれない。


 はぁ……。




 こうなったら、1対2の突発デート、とことん楽しむぞっ。

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