第47話 その後の話

「どうしたの、アレス?」


 俺がなんとなく手の甲を眺めていると、セーナが不思議そうな顔をして声をかけてきた。


 回復魔法が使える元聖女様は俺がちょっとでも怪我をすると飛んでくる。

 心配してもらえるのは嬉しいが、少し過保護すぎる気がしないでもない。


 まあでもそんな彼女が俺は好きなんだけどね。


「いや、また紋章が浮かび上がったら師匠に会えないかなと思って」

「それって魔王がまた出てくることにもならない?」

「あはは、そうだね。ちょっと不謹慎だったかも」


 なんとなく照れくさくなったので笑って誤魔化そうとしたのだが、セーナは俺の隣に腰かけると、少し真剣な顔をつくって話しかけてくる。


「もしあなたがまた戦わなくちゃならなくなったら、当然私も付いていくから安心してね」


 でも出てきた言葉はなんとも可愛らしいものだった。

 胸を張ってそんなことを言う彼女が愛しくて、俺はその体を抱き寄せる。


 世界は救われた。

 手にあった紋章はなくなり、もう俺の役割は終わったのだということを告げている。


 だからこれからは、この幸せな時間を大切にしていこう。


「愛してるよ、セーナ」

「私も愛してる、アレス」


 二人だけの穏やかな時間が流れていく。

 きっとこれからもこんな時間が続いていくのだろう。


 でもあの時、あの瞬間には、ここにもう一人、あの人がいた。


 誰よりも厳しくて、誰よりも優しくて、そして誰よりもこの世界を愛していたあの人は、今どこで何をしているのだろうか。


 魔王が倒されたあの日から、あの人の姿を見た者はいない。


 まるで霧のように、あの人の存在はこの世界から消えてしまった。


 でも俺は決して忘れない


 あの人は、ここで俺たちと共に戦い、そして俺たちと共に世界を救ったんだ。


 それだけは、確かなことだ。

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