第25話 応急処置
予想通りといえば予想通りだった。
いつだって結論はこの世界の理に従う。
それゆえに、原因は至って単純だ。
100年周期から外れた魔王。
いつまで経っても現れない勇者。
それに伴う戦争の長期化。
考えてみれば当たり前のこと。
戦いが長引けば長引くほど、戦闘員のレベルは上がる。
雑兵相手ではそのうち頭打ちになるかもしれないが、それでも戦い続ければそこそこ強くはなる。
そう、魔王領に入れる程度には。
そして魔王軍幹部を倒す程度には。
これはとある冒険者パーティーの話。
魔王軍との絶望的な戦いの中で、彼らは敵を倒して、倒して、倒し続けた。
そしてなんの因果か、彼らは魔王領へと導かれ、ついには魔王軍幹部を撃破してしまう。
これだけ聞けば美談だろう。
現にこの世界の人々はそのことに歓喜した。
まったく、呑気なことである。
――――
三体目の魔王軍幹部が勇者に討伐されるまでの一週間、僕は対応策を考えていた。
そして結論はすでに出ている。
あまりやりたくはないが。
この作戦において、世界に対する干渉レベルはもうずいぶんと高くなってきている。
まだ最終段階にまでは至っていないが、それでも平時と比べて僕はもうずいぶんとこの世界の情勢に関わってしまった。
そういう意味ではこれからやることに対して抵抗を感じるにはもう遅い。
残念なことに、すでに僕の信条は破られているのだ。
まあ世界を救う行為の前では僕の信条などどうでもいいことなのだから気にする必要はない。
僕は使徒として世界を救うだけ。
ただそれだけのことだ。
「ルイ様、勇者が三体目の魔王軍幹部を撃破しました」
「そうか」
部下の報告に短く答える。
彼も彼のやるべきことをちゃんとやっている。
だったら僕もそれに応えるのが筋というものだろう。
「それじゃあ行ってくるよ」
「お供いたします、ルイ様」
「いや、いいよ別に。君は君の仕事をしていればいい」
「しかし・・・」
「別に危険はないよ。一人で大丈夫」
そう言って僕は一人で目的地へと向かうのだった。
――――
勇者の経験値問題。
これを解決する方法はもとより一つしかなかった。
勇者は魔物を倒すことでしかレベルが上がらない。
だったら倒すべき魔物を創ればいいのだ。
魔王軍幹部の経験値効率には及ばないまでも、現段階で勇者が倒せるギリギリの魔物を僕が出現させる。
時間的に考えても大物は一体しか討伐できそうにないが、それでもないよりはマシだろう。
あとは別に用意したもう一つの策があれば、なんとか喪失した分の経験値を補うことができる。
僕は時間の許す限り考えて出したこの結論を、何度も反芻しながら目的地を目指した。
魔王領直近の火山。
そこが次なる舞台。
そこには昔からドラゴンが住み着いているという伝説がある。
実際はそんなもの存在しないのだが、今回はこの話を利用させてもらうことにした。
誰もいない荒野にぽつんとそびえ立つ山を眼下に見下ろしながら僕は呪文を紡ぐ。
「魔物召喚:ドラゴン」
その発動とともに火口付近に一体のドラゴンが現れた。
突然の自我の誕生にドラゴンは戸惑っているようだが、それも今だけの話。
いずれこいつは暴れ出す。
さあ勇者よ、次なる試練の始まりだ。
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