笑わない彼女

黒猫B

第1話 水族館にて その1

「はい、ちー…んすこう!」

パシャリ。


俺はスマートフォンに写る彼女、舞園文香を改めて眺めた。

そして一つ、心の中で大きなため息をついた。


ざ・無表情。


カメラに映る彼女はレンズの一点をまっすぐに見つめ微動だにしない。


そんな撮られ方があるかあ?


やはり今回もダメだったようだ。

先日考えた渾身のギャグ。しかし文香はどこ吹く風だ。

左手に持ったちんすこう。わざわざ買いに行ったんだぜ?


だが…勝負はまだ始まったばかりだぜ。


舞台は沼津深海水族館。


付き合って1年記念日の今日。俺は心に決めていることがある。


笑顔の彼女を撮ること!


そのために考えてきた作戦は山ほどあるのだ。

(俺に英知を貸してくれたスケベニスト谷川、ミスターフェミニン城島。この場を借りてお礼するぜ)


「よし、じゃあ写真も撮れたことだし。文香!早速中に入ろうぜ」


「あっちょっと」


「ん?なに?」


「…ズボン。チャック開いてる…。」


おーっ。やーっと気づいたか。


しかし、目の前の文香の顔は若干引きつっている。


うーん、この第二弾も失敗かあ?はあ、わざわざ開けておいたっていうのによお。


…うん、そういうことにしておいてくれ。




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