アラフォーバ美肉おじさん異世界へ転生し女神と崇め奉られる

てろめあ

序の一 アウラというVtuber

『おはよう、こんにちは、こんばんは~、アウラだよ~っ!」


「ただいま、アウラちゃーん。今日の仕事も疲れたよ~」

 私は画面の向こうで手を振るVtuber『アウラちゃん』に声を掛けながら、パソコンデスクの前にのり弁と発泡酒を置き、スーツの上着を脱いでブラウスのボタンを外して部屋着に着替える。

 金曜夜、仕事終わりの私の唯一の楽しみ、Vtuberアウラの最新動画だ。


『今週も一週間お疲れさまでした。今日はゲーム実況をやっていくよ~!』


 はぁ~、いつ見てもアウラちゃんは尊い。

 髪の毛の一本一本まで作りこまれたようなサラサラで流れる様なハニーブロンドの髪、うっすらと紅が差しまるで画面越しの私に恋をしているような頬、常にウルウルと揺れる榛色はしばみいろの瞳、女の私以上に女らしいその仕草、思わずどんな高性能PCと物理エンジン使っとるんじゃい!と突っ込みたくなるような滑らかで自然な動き。


 アバターとはわかっていても、ノンケの私が思わず恋をしてしまいそうになる程尊みが深過ぎて、アウラたんマジ女神。


 彼女がネット世界に現れたときは、衝撃だった。


『Vtuber始めました』と題した動画はなんと十か国語で同時配信され、そのどれもが字幕ではなくアウラ本人が喋っていたのだ。


 アウラ本人によれば一本の動画をすべて十か国語で撮り直しているため、動画配信頻度は一週間に一度だけ。Vtuberとしては極端に少ないと言わざるを得ない更新速度だったがネット界隈では「とんでもない配信者が現れた」と俄かに騒がしくなったのを覚えている。


「テンプレの挨拶だけ十か国語で話してるだけだろ。話題づくり乙」

「適当なフランス語喋ってんじゃねーよ」

「十か国語なんて喋れるヤツおるの?」

 当初はそんな否定的な見方をする人たちも多かったのだが、各国のバイリンガルTuberたちがこぞってアウラの検証動画を上げ始めてから、彼女に対する見方が変わった。


 彼女は本物のマルチリンガルだったのだ。


 とある動画でことわざや慣用句を喋ったとしても、世界各国や言語では表現が変わると言うのは知っている人も多いのではないだろうか。彼女はその全てを十か国語で正しく表現できるのだ。


 また、世界各国の食文化や生活習慣に詳しく、様々な国に旅行する際の注意点や文化的習慣を解説した動画も人気を博している。


 彼女が現れてから三年、今ではチャンネル登録者数四千万人を超え年内には五千万人を超えるのではないかと言われるほどの世界最高峰のVtuberとなった。


 登録者数が一桁の時にチャンネル登録をした事は、私のひそかな自慢だ。


 メイクを落としながら画面に目を向けると、アウラが操作するキャラが無残にも殺人鬼キャラに殺される場面だった。


 ゲームへたくそなアウラたんもマジ尊みが深い。


 おっと、見とれていたらビール(発泡酒)が温くなってしまう。


 私は画面から目を離さないまま、缶のプルタブを開けて一口目を呷るのだった。

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