終わりは唐突に、残酷に

「ふい~。良い風呂だったぜ」


 濡れた髪をタオルで拭きながら、俺は自分の部屋に戻ってきた。

 一通り水気が取れた後は、椅子の方にタオルをぶん投げることに。

 こうすると「ドライヤーで乾かそうよー」って照がうるさいけど……面倒だしなぁ、完全に乾かすの。別に髪が乱れようが寝癖つこうが気にしないし。


「さて、ゲームでもするか」


 そんなことよりも、俺はゲーム機と一緒に布団で横になる。

 というのも、明日は電子機研究部の活動がある。つまり鈴に会ってしまうということ。鈴の奴、あれほど進めてたとは。俺も早くやらないとな!


 だけど、その前に。俺の頭に、あることが思い浮かんだ。

 机のパソコンに電源を入れる。何回かクリックして辿り着いたのはあるサイト。

 ……俺が見た昨日の悪夢のサイトだ。あの時は、ただの作り話だと思ってた。だけど、今はもう信じるしかなかった。

 もしかすると偶然の一致なのかもしれないけど……とにかく調べてみようか。


「…………」


 といっても、記事から分かる情報は昨日と変わらない。

 気になったのはコメント欄か。手掛かりになりそうな情報があるかも。

 ほとんどは昨日の俺みたいに鼻で笑ってるか、面白がってる人のコメント。

 だけど、カーソルを動かしていると……気になるコメントが目に飛び込んだ。


『この記事は本当です。私もこの悪夢を見ています。まいにち、まいにちまいにち目覚めたら変な館にいて、妻や娘、会社の上司や部下に似た化け物が私を殺そうとするんです。そして、捕まったら殺されます。娘が私の臓器を抉り出して、おもちゃで遊ぶかのようにもてあそぶんです。いたいんでうs。薄氷を踏むような思いでいっぱいなんです。もう、何かあったらくるってしまうくらい頭がおかしくなってるんです。誰か助けてください』


 この記事を肯定、どころか実際に見たという人物からのコメントだった。

 投稿時間は一昨日。それ以降のコメントはなく、これで終わっていた。

 馬鹿な俺でも、見れば文章から必死さというか恐ろしさが伝わってくるようで。

 所々ひらがなが変換されてないのは、そんな余裕すらなかったからなのかな。


 だけど、この人の願いむなしく、他の人からは相手にされないどころか嘘松乙だとか基地外かよだとか、そんなことしか言われていなかった。

 

「この人、大丈夫なのかな」


 ……悪夢、変な館、知人に似た化け物。偶然にしては重なってて。

 もしかして、俺もこの人みたいになってしまうんじゃないか。

 漠然とした、だけど巨大な恐怖に言葉を詰まらすと――急に、電話が鳴る。

 最初は驚いて。正体に気づいたら安心とちょっぴりの腹立たしさを感じた。


「ゆのねぇ……。なんだよ?」


 電話をかけてきたのは、まさかの相手。

 そういえば、今日は会ってないな。とりあえず電話に出てみることに。


『もしもし、夜分遅くにごめんなさい』

『ああ、構わないぜ』


 優しげなゆのねぇの声を聞くと、強張った気持ちが和らいだ気がする。

 悪夢のことを調べたせいで落ち着かない気分だっただけに、それは尚更だった。


『それで本題だけど。明日の放課後は暇かしら?』

『何だよ、急に』

『実はね、生徒会の方でやらないといけない仕事があるのだけど……役員の子が来れなくってね。代わりに手伝ってほしいの』

『ああ、なるほど』

 

 別に驚かないのも、こういうことは今まで何回もあった。

 生徒会、ゆのねぇ以外やる気ねぇ奴ばっかなんだよな、ふざけたことに。

 まー、断る理由もないし、引き受けるか。おそらく変に長引くことはないだろうし。直樹の部活や調理部にも顔を出せるはずだし。


『わかったよ、明日の放課後すぐに生徒会室に行くよ』

『本当!? ありがとう、助かるわ』

『任せてくれって。んじゃ、おやすみ~』

『おやすみなさい、道也くん。……あっ、今日はちゃんと早く寝なさいよ~。夜遅い時間まで起きてちゃダメなんだからね?』

『わかってるよ、言われなくても』


 言うことを聞かない弟に言い聞かせるような言い方にモヤモヤしつつ。

 通話を切ると、俺は真っ先に机の上の時計を見た。さて、現在時刻は11時58分。

 もちろん、ゆのねぇに言われたように真面目に早めに寝て


「さーて、ゲームでもするかー!」


 なんて、もちろん言うことなんて聞くわけがないよなぁ!?

 俺は夜型人間、夜中とはゲームに最も集中できるゴールデンタイム(?)だ。

 ……それに、寝たら悪夢を見てしまうんじゃないかと不安もあったし。

 そんなわけで現実逃避も兼ねるべく今夜はゲームに没頭することにした。ゲームが立ち上がって、何からやろうかと考えていた時。


「あれっ、なんだか眠いな」


 正体不明の、抗いようのないくらいの眠気に襲われた。

 なぜか知らないけど、いきなり眠い。とにかく眠かった。為すすべもなくこのまま布団に横になったら――すぐに、俺は眠りについた。

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