第51話 十一
(ここで出会う客が初めての相手だなんて、ぜったい駄目)
コンスタンスは奥歯を噛みしめていた。それはまさに安売りというものだ。
一瞬にしてコンスタンスの胸に、忘れていたブリジットたちへの警戒と侮蔑がこみあげてきた。
「わ、わたしは、いいわ」
「あら、そう。じゃ」
ブリジットは火のような紅いスカートの裾をひるがえして、ドアに向かっていく。
ドアの向こうでなにやら話し声が聞こえたかと思うと、やがて静かになった。
そうなってしまうと、コンスタンスはひどく味気ないような寂しい気持ちになってくる。
(なんだか……)
こんな所まで来て一人ぼっちになっている自分がひどく哀れな存在に思えて、惨めでたまらない。
「ああ、コンスタンス、ごめんよ、ほったらかしにしていて」
入って来たのはカルロスだ。
「いろいろマダムと話していてね」
カルロスはコンスタンスの向かいに座るとマカロンをひとつつまむ。
「カルロスは……ここで働いているの?」
「まさか。ここで働くのは女性だけだよ」
もちろん冗談で言っているのだろうが、コンスタンスはあわてた。
「あ、あの、そういう意味じゃなくて、その、マダムのお仕事を手伝ったりしているの?」
「いや、言っておくけれど、僕はマダムの仕事にはいっさいかかわっていないよ」
信じてはいけない、とコンスタンスは自重した。
カルロスもまたこの家の一部なのだ。ブリジットやビュル同様、どこまで心をゆるしていいのか判断がつかないところだ。
コンスタンスは心のどこかで居心地の悪さを感じながらも、帰る場所もなく行く所もなく、その夜はその館のソファのうえで朝を待った。
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