第23話 三

「何か事情がありそうだね。良かったら、そこのカフェでお茶しないかい?」

 親指でカフェをしめすその仕草は少年のようだ。コンスタンスは頷いていた。

 

 カフェでクレオと向かいあったコンスタンスは事情を説明した。

 あのとき教室で、ドアのひらく音に目を向けたコンスタンスを睨みつけていたのペリーヌだった。雀斑そばかすにかざられた顔が真っ青になっていた。

「この……売女ばいた!」

 ペリーヌは両拳をにぎりしめて、ふんぞりかえるようにしてそう叫んだのだ。

「あんたって、母親そっくりの淫乱なのね! 私聞いたんだから、パパと警察署長が話しているのを!」

 呆然とするフーリエとコンスタンスを前にして、ペリーヌは何かに憑かれたかのようにまくしたててきた。

「あんたの母親はね、公園で男と逢い引きしていたところを娼婦と思われて逮捕されたのよ!」

 魔女のように金切り声をあげてペリーヌは叫びつづける。

「警察署長とパパは長年の友人同士なのよ! 署長ががうちに来たとき、たまたまあんたの父親のお店の経営の話になって、そこで署長があんたの母親のことを思い出したのよ。あんたの母親はね、新聞の三面記事にったことがあるんだからね!」

 そこで一瞬ペリーヌは言葉を切ったが、次にほとぼしり出た言葉は、目に見えるほどの憎悪と悪意のかたまりだった。

「警察署長は、同情してたわ。なんでも、警察へ身柄を引き取りにきたあんたの父親は、警察官たちのいる前であんたの母親をひっぱたいたんですって。しかもそのとき、自分の愛人だった情婦をいっしょに連れてきてよ。彼女の見ている前で、正妻をなぐったのよ。本当にお気の毒。警察署長は、いくらなんでもあれはひどい、って憤慨ふんがいしていたけど、母親がそんなふうだから、あんたも淫乱になったのね!」

「ペリーヌ、いい加減にしなさい」

 フーリエが気弱げにたしなめたが、ペリーヌは聞く耳もたない。

 だが、そのときコンスタンスは「嘘よ」と言い返すことができなかった。

 そのとき父が連れていた愛人とは、もしかしたらエマのことかもしれない。

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