第11話 四
自らに叫んではみたが、この女は父の妻であり、そうであるからには形式的にはコンスタンスの母でもあるのだ。唇をかみしめコンスタスは長椅子に近づいた。
「明日の夜、お客様が来るのよ。悪いけれど、あんた、ディナーの準備しておいてくれない?」
これもまた召使に言うような口調である。
「……無理よ、わたし寮にもどらないと」
「あら、あんた、もう戻らなくていいのよ」
「え?」
コンスタンは驚いて目を見開いた。
身を起こしてグラスを受けとるエマからは、やはりアルコールの臭いがする。
「あら、あんた、パパから聞いてないの?」
パパ、という言葉がエマの唇からもれるとき、なんともどぎつい黒いものがその赤い口からあふれてくる気がして、コンスタンは目を伏せた。
「あんた、今月からはもう寮に帰らなくていいのよ」
「ど、どうしてよ?」
びっくりして訊いていた。
「どうしてって……」
気だるげにエマが首をふり、グラスの水を飲む。
「家政婦が今度から週一回しかこれないから、家のことはあんたに頼もうかと思ってるのよ」
「そ、そんな、無理よ!」
寝耳に水だ。コンスタンスは声を荒らげていた。
「仕方ないでしょ。パパの仕事が今たいへんで、いろいろ倹約しなきゃならないのよ。あんたも、もう子どもじゃないんだから、そこらへん解ってちょうだいよ。今度からあんたが家の事をするのよ」
エマは本気で自分を召使にするつもりなのだ。コンスタンスははらわたが煮えくりかえるほどの怒りというのを、今まさに生まれて初めて経験した。
「いやよ! わたしはメイドじゃないのよ。勉強だってしなきゃならないんだし……」
エマは薄茶色の目を冷ややかに光らせ、ひどく憎々し気に言い放ってきた。
「勉強したってどうせ、女はお嫁に行くだけで意味がないじゃない。家のことをした方が、よっぽど将来ためになるじゃないの」
コンスタンスはなにか言い返してやりたいが、うまく言葉が出ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます