第8話 継母 一


 家に帰ると、継母はやはりいなかった。

 玄関をすすみ、食堂に入っても、誰もいない。コンスタンはテーブルの上を見て眉をひそめた。朝食の皿がそのまま置かれ、カップには冷めきったカフェオレが汚水のように半分ほど残っている。

 継母のエマはほとんど家事をしない。昔は住み込みのメイドがいたが、去年からは太った家政婦が週二回来るだけになった。

 閉めきった窓ガラスには水色のカーテンがわびしく垂れ、以前はワックスで磨かれていた松の床にパンくずがこぼれている。コンスタンスは叫びだしたい気持ちになった。

(ママンがいたころには、こんなことは絶対なかったわ)

 テーブルも床もいつもぴかぴかで、この季節には家じゅうの部屋に鈴蘭がかざられていた。汚れたカップや皿が夕方まで出しっぱなしになっているなどということは、絶対になかった。

(ママンがいたら……)

 数年前に家を出ていった母マリーからは、その後なんの連絡もなく、手紙の一通もこない。それっきりである。

 コンスタンスにはよく解らないが、ちょうどそのころ家に来ていた父の姉、つまり伯母が父と書斎で話していたのを聞いたことがある。

(ひどいわね。娘をおいて家を出るなんて。コンスタンスのことが可愛くないのかしら?)

 その言葉は小針のようにコンスタンスの胸に突き刺ささり、今も抜けない。

 後になって知ったことだが、現在の法律では、夫婦が離婚をするには、三年の別居を経なければならないらしい。さらに昔は離婚はゆるされず、どうしても折り合いの悪い夫婦は別居のみゆるされても、法的に離婚することはできなかったそうだ。

 だが母が家を出てからすでに三年以上たっている。つまり両親の離婚は成立したということだ。この問題に関しては父も後妻のエマも、たまに訪れる父方の親戚たちも、コンスタンスにはなにも言わない。母方の親戚にいたっては、遠方に住んでいることもあり、母が家を出てからはほとんど付き合いがない。

 コンスタンスの胸にやり場のない怒りがわいてくる。エマは三年の別居期間中、つまり、まだ父と母が法的には夫婦であるときに、すでに図々しくもこの家に上がり込んできたのだ。そして我が物顔で母のドレスや香水、カップをつかっているのだ。

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