第5話 三
だがそれは、けっして心地良いものではない。熱すぎる飲みものを無理に飲みこんだときのような苦しさをふくんでいる。
「どうしたの、コンスタンス? そんな怒った顔して」
アガットの、今の空とおなじく
「あ、ごめん、変なこと思い出していたの」
何故か
今朝の、
どぎつい赤い口紅が、赤い薔薇模様のカップを汚す。ウビガンの香水は強すぎて、朝食時のカフェオレのかおりをだいなしにしていた。薔薇模様のカップもウビガンの香水も、もとはといえば、ママン――、まだ幼かったコンスタンスを父のもとにおいて去っていった母マリーのものだ。
(あの女は、ママンのものをすべて奪ったんだわ)
その事を思うと、コンスタンスのまだ薄い胸のなかで憎悪の火花が散る。
苛ついていたのは、午後に見かけた上級生たちが匂わせ始めた〝女〟に、大嫌いな継母とおなじ匂いを感じてしまったせいだ。コンスタンスは必死に感情をおさえた。
「ごめん。宿題のこと考えて、ちょっと気が重くなっちゃったの」
「わかるわ。フーリエ先生、きびしいものね。いつもコンスタンスを指名するし」
苦手な数学教師のことを思い出すと、またコンスタンスはもやもやとした厄介な気分になる。
のっぺりと細長く青白い顔。ひょろっとした身体は、妙になよなよして、どういうわけかコンスタンスの神経をひっかく。その苦手な数学教師は、何故かやたらとコンスタンスを指名してくるので、級友たちは、「フーリエ先生はコンスタンスに気があるのじゃない?」とおもしろがって騒ぐのだ。
「気にしているの? ペリーヌたちの言っていたこと」
「うーん……」
ペリーヌ。まさにその噂話をたてた張本人であり、どうにも馬の合わないクラスメートである。金髪に、気の強そうな青い目。頬に
彼女とは、初等部に入ったとき初めて顔を合わせてから、どうしても気が合わなかったのだ。
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