オレは、世界と繋がれない


 駅員の真後ろに構えるゲートを、切符を挿入しなければ開かない遮断機をすり抜けながら堂々と通る。

 振り向けば丁度、オレの後ろから切符を挿入してゲートを通ったサラリーマンが2人いたが、誰も目の前で遮断機をすり抜けたオレに対して目立った反応を示さなかった。

 彼等にもオレは見えていないらしい。


ーー………なんだかなぁ……。


 サラリーマンと並ぶようにして階段を降り、駅のホームで何もすることなく只々電車を待つ。

 ホームの二番乗り場にはそれなりの人数で混んでいたが、誰も、荷物も何も持っていないオレに見向きはしない。ついでに言えば、この場にいる何人かはオレの存在に気付くことなく、オレの身体をすり抜けて歩いていった。


ーー……うーん………なんて言うか……なぁ………。


 待つこと約15分後、電車は駅に到着する。車内から出て行く人達を見送り、入れ違いにホームにいた人達が入って行く。オレもその後に続いた。


 車内は、座席に座る人や吊り革を掴んでいる人で溢れており、オレの姿が見えていない人達はオレに構わず場所を詰めてくる。常に誰かが自分の身体を貫通しているのはあまりいい気分ではなかった為、吊り革より上に身体を浮かせることにした。


ーーこれ、オレ大丈夫か?オレだけ電車をすり抜けて線路の上に取り残されたりしないよな…?


 重力を持たない身体に慣性の法則が働くのか不安に駆られたが、問題なく電車は次の駅へオレごと人々を乗せて走り出す。


ーー電車に置いて行かれなくてよかった…。


 安堵の息を吐いて、自分より下に居る人々を見下ろす。

 誰も、頭上に浮いているオレを見ていなかった。

 時折何人かは天井に吊るしてある広告へと視線を上げるが、広告を遮るように漂うオレと視線は合わない。


「………誰か、オレの姿が見える人はいませんかっ!?」


 思い切って、車内に居る人達全体に向けて声を掛けた。結果はーーー…無反応。


 自然に反したオレを見て騒ぎ立てる者は、誰一人いなかった。


ーー…なんだろう……さっきから感じる、この気持ち悪い疎外感……………。


 酸素の不必要な幽体であるにも関わらず、妙に息が苦しい。思わず制服の胸辺りを右手で掴んだ。


「…………誰か…だれか………誰でもいいです…オレの姿が見える人はいませんか…?………」


 絞り出した声は虚しく車内に溶けた。









ーー………………………ああ、もしかしてこれが、『世界から爪弾かれた』ってやつなのかな………。


 誰からも反応をもらえなかったオレの乾いた笑い声を聞いた者は、きっといないのだろう。

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