異世界転生に無関係な残念能力者が日常でなにかしらあんなこんなを巻き起こす様話

得幸

第1話 フライロウ

小さい頃から、私は高い所がキライだった。

原因はわかっている。

お父さんだ。


お父さんもおじいちゃんも、そのまた上のご先祖様も

不思議な力を持っていて、私にもそれがある。


「短絡的思考」というか「豪快」というか、な お父さんは、

私が小さい頃に喜ぶと思ってその力を使い、

アメリカのグランドキャニオンという場所に家族旅行で訪れた際に、

岩から岩へと私を両腕に抱えてジャンプしてくれたのだが、

それが、恐い思い出でしか無く、

私を高所恐怖症にさせたのである。


私の持っている力。

というのは、いわゆる「浮遊術」なのだが、

そういうわけで、

この力を使って、高い所へ行こうなんて考えたことなどない。


浮游仲間のみんなは人目につかない場所を見つけて、

夜中に空へと昇り、数多煌めく星空でお茶をしたり、

森で一番高い樹の上に腰掛けて眼下の雲を見下ろしてみたりなど、

それぞれに楽しんでいる話を聞かせてくれるのだが、

これまで一度も羨ましいと思ったことがない。

ファンタジーもメルヒェンもロマンチックもいらないのだ。


じゃぁ、私がこの力を使っていないか、というとそういう訳でもなくて。

私の天職(と思っている)、マジックショーで実は使っている。

分離式の台の上にアシスタントを仰向けで寝かせ、

下の台を少しづつとっていく。

するとアシスタントは宙に浮いた状態となり、

マジシャンがフラフープのような輪っかをアシスタントの足元から頭まで通していく。

いわゆる「人体浮游マジック」というやつなのだが、

これに私は使っている。

まさに「種も仕掛けもありません」というわけだ。


私の所属するマジック団(といっても団長と私とアシスタントの3人だけだが)は、

それぞれが異なった「力」を持つ集団で、

お互いの力のことを外部には絶対にもらさない。

ということでこの天職を続けていられるわけだ。


あとは、今日みたいな雨の日にも、

実はちょっとだけ使っている。

地面からホンの数センチだけ浮くことで、

靴が必要以上に汚れないようにしている。


これは私達浮遊者にとっては目からウロコのアイデアだったようで、

私がはじめるまで誰もやっていなかったのに、

仲間内で噂になって、今では誰もがやっている力の使い方となった。

というわけで、少しだけ私の名前は、

コッチ方面で通っていたりもする。


水たまりの上だって、

この通り、全然平気で進むことができまーす。


彼女が水たまりの上に波紋を作ること無く歩き始めたその瞬間、

前からやってきたカッパ姿の女の子が不思議そうに指を差して、

母親に「なぜ?」を訴えかける仕草をした。


知られてはいけない!

咄嗟に私は浮遊術を解いた。


バシャン!

靴は水たまりの水でドロドロに。

靴下まで濡れていそうな水しぶきをあげた。


子供の観察眼には頭がさがるよ。


おしまい。

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