第11話
「お嬢様。本当に申し訳ありませんでした」
失敗した。ちゃんと首輪を付けとくべきだった。錫が死に掛けたら兼定が絶対にそうしちゃうって分かってたはずだったのに。これじゃ最初から錫が兄ちゃまの体を狙ってたみたいじゃん。別の意味では狙ってたけど。
「今更何言ってるの。もう遅いよ。あの時だって、兼定が錫じゃなくて兄ちゃまの事を優先してれば平気だったのに」
あの日、兄ちゃまがあの女に殺されてしまった日も兼定の所為だ。
「ですが、倒れてしまったお嬢様を放っておく訳にはいきません」
「兄ちゃまは死んだじゃん。それで体を変えて。これじゃ錫がわざとやったみたいじゃん」
「本当に申し訳ありませんでした」
もうそうやって頭を下げてれば錫が許すと思って。あん? こんな時に誰よ?
「祐二ですね。どうぞ入って」
何それ。ノックの音だけで分かるの? なんか怖い。やっぱりこの二人はクビにした方がいいのかも。
「兼定さん。錫様。猫服先輩、いえ、大津賀彩絵の今日の行動の定時報告に来ました」
「毎日ご苦労様です。祐二。報告書をこっちに渡したら客間で待っていて下さい」
定時報告? あ、そうだったんだ。でも、ノックの音で見分けてたもん。絶対そうだったもん。
「錫様。すいません。お話があります」
錫と口を聞こうなんて一億万年早いってのこの糞虫が。
「兼定」
「はい。祐二。お嬢様に代わってこの兼定が聞きます。さあ、言って下さい」
そうじゃないでしょ。出て行かせるの。
「いえ、でも、これは」
「祐二」
いや~。何これ? もう最低。二人の周りにハート形のきらきらが見える~。
「分かりました。じゃあ、兼定さんに向かって言います。錫様。どうか颯太の事で兼定さんを責めないで下さい。兼定さんは錫様を思うあまりにやったんです。そんな兼定さんの気持ちをどうか察してあげて下さい」
糞虫がでしゃばりやがって。錫に意見しようなんて地球ができる前より早いっての。
「死ね。早く出てけ」
この枕でも食らえ。
「お嬢様。やめて下さい」
「ひゃん。錫様すいません」
ひゃんってなんだよ。ひゃんって。枕が当たったくらいで変な声出すな。
「用が済んだらさっさと出てけ」
「はい。すいませんでした」
「祐二。ありがとう」
またきらきらしてるし。錫がこんななのに。ほんといらいらする。
「お嬢様。定時報告はどうしますか?」
「どうせちゃんと生きてるんでしょ?」
「はい。お兄様が戻ると信じて毎日を健気に生きているようです」
「ふーん。今からでも刑務所に入れちゃおっかな」
「お嬢様。それはしないと約束してもらったはずです」
あの糞虫が言ったからでしょ。二人してべたべたしてばかりいて。
「ねえ、兼定。ベッドから出たい」
外に行きたい。……。兄ちゃまがくれたこの体で外の空気を思い切り吸いたい。
「まだ駄目です。後二日ほど我慢して下さい」
「その間ずっとこのまま?」
「これからは普通の人と同じ肉体です。もう定期的に手術をしたり床に臥す事もなくります。ですから今少し辛抱して下さい」
兄ちゃま。錫は感謝なんてしないからね。自分を犠牲にして錫を助けて。いくら錫の事を愛してるからって反則だよ。兄ちゃまの馬鹿。馬鹿。馬鹿。錫は兄ちゃまの事こんなにラブリーラブラブラブラブリーなのにぃー。兄ちゃまの馬鹿ああああぁぁぁぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます