第42話 お嬢様と女子会


「うふふ。ここの紅茶美味しいわね~」

「そうですねー。なんだか嫌なことも忘れそうですよねー」

「あら、それ嫌味なのかしら?」

 

 今、私はなぜか。

 魔人のサキさんと一緒に、お茶をしている。


「なんでボクが、魔人なんかとお茶しないといけないの……」


 隣に座っているキナコは完全に怒ってて。

 横を向いてふてくされてる。


 ここは、1年生のクラスが出店しているオシャレなカフェ。


 今カフェで同じテーブルにいるのは。

 魔人のサキさんと。


 私。

 キナコ。

 

 そして。

 リリーちゃんとグラウス会長。


 ほかの生徒やお客さんは、私たちの席をチラチラ見ている。

 

 ……目立つもんね。

 グラウス会長なんて見た目完全に美人なお姉さんだし。

 魔人のサキさんもすごい美人だし。

 

 ――なにこの豪華な女子会。


「みんなかわいい子で、お姉さん嬉しいわ」


 サキさんは、頬を抑えながら興奮気味に話す。



 廊下での騒ぎの後。

 

 魔人のサキさんは、敵意がないことを説明してきて。

 駆け付けたキナコが、何重にも魔封じの結界をかけてくれた。

 

 サキさんも結界を素直に受け入れてくれて。


 で。


 彼女の提案で、みんなでお話することになった……と。

 

 なんだろうこの展開。

 戦いにならなくてよかったけど。


 帝国のワナ……とかじゃないよね?

 

「私に聞きたいことがあるんでしょ? お姉さんなんでも答えるわよー」


  

**********


 サキさんは、ダンジョンで会った時と印象が違って。


 柔らかな微笑みを浮かべている。

 優しいお姉さんっていう印象だ。


 耳にかかった長い髪をかき上げる姿に、おもわずドキッとする。

 同性の私でも思わず見惚れるくらい、キレイ……。


「星乙女ちゃんは、お姉さんに何を聞きたいのかなぁ?」


 テーブルの上の私の両手を握ってくる。

 何故、頬を少し赤らめてるんだろう。


「そこのおばさま? クレナちゃんの手を握らないでくださいませんか?」

「せっかくカワイイのに、口が悪いわね。さすが悪役令嬢だわ……」


 ……やっぱり。

 リリーちゃんの事も知ってるみたい。


「まぁ、リリアナとクレナが一緒にいるっていうところは……ゲームと同じよね……」

 

 見た目がゲームとかなり違っていて。

 リリアナ最大の特徴、「金髪くるくる縦ロール」でもないのに。

 あっさり気づくなんて。


 もし、本当に転生者だったら。

 すごく……ゲームをやりこんでた人……だよね。


「サキさんは……やっぱり転生者なんですか?」

「そうよ? 自慢じゃないけど『ファルシアの星乙女』は誰よりも詳しいと思うわ。まぁ、敵側の魔人に転生しちゃったんだけど」


 嬉しそうに顔を近づけてくる。

 私は、慌てて手で遮りながら、質問を続けた。


「……帝国にも魔人にも転生者はいないって、知り合いが言ってたんですけど」

「あはは、そんなわけないじゃない。沢山いるわよ」


 かみたちゃんの説明と全然違う。

 どういうことなんだろう。


 どっちかが嘘をついてるの?

 でも……。  



「ねぇ、さっきから……ゲームって?」


 グラウス会長が、興味深げに問いかける。 


 そうだった!

 グラウス会長も同じテーブルにいたんだった!


「サキさん、サキさん! 別の質問があります!」

「うふふ、なぁに、星乙女ちゃん」


 とりあえず別の話をふらないと。

 まだ聞きたいことも沢山あるし。  


「サキさんのいたダンジョンに、たくさんのネックレスがありましたよね? あれはどんな目的だったんですか?」


 これまでの調べで。

 あのネックレスは帝国が作ったんだろうってことまではわかってるんだけど。

 目的がよくわかってないみたい。


 ……素直に答えてくれるとはおもえないけど。

  

「そうねぇ、王国では沢山売れたのよ。おかげで儲かっちゃったわ」

「あれは、王国国内を混乱させる為の道具だった。違いますか?」


 サキさんの返答に、今度はグラウス先輩が鋭い口調で質問する。


「さすがグラウス。攻略対象なだけあるわね」

「……攻略対象?」

「でも、外れだわ。もっと大きな目的よ?」

 

 大きな目的?

 問い返そうとした瞬間。 



「やった! お姉ちゃんを見つけました!」


 突然、教室に大きな声が響き渡って。

 黒髪に大きな瞳の女の子が飛び込んできた。

 

「文化祭だから遊びにきました」


 ナナミちゃんは、嬉しそう笑顔で、私に駆け寄ってくる。

 着ている服には大きな襟がついていて、セーラ服っぽい。


 まるで、ゲームのパッケージを見てるみたい。



「え? なによこの子? ゲームのヒロインそっくりじゃない……」


 サキさんは、私とナナミちゃんを交互に見比べている。


「……お姉ちゃん? この人だれですか?」


 ――なんだろう。

 ナナミちゃんをこの人に見られたのは……なんだかまずい気がする。


 

「そう、貴女が……うふふ、良いものを撮れたわ」


 撮る?

 ……そういえば。

 サキさんの胸にあるペンダントがずっと怪しく光ってた気が……する。

 まさかあれって……映像クリスタル?


「ご主人様、やっぱり影の言うことは信じられない! いますぐ倒しちゃおうよ!」


「このまま星乙女ちゃんをさらっていきたいんだけど。目的は果たせたし、今回はここまでかしら」


 サキさんが、パチンと指を鳴らすと。

 教室の壁にゲートが浮かび上がった。


 あんなにキナコが厳重に封印してたのに。

 ゲートの魔法を使えるなんて……信じられない。


「逃がさない!」

 

 キナコが封印に力をこめたみたいで。

 サキさんの体が眩しく光る。


 次の瞬間。

 パリンという大きな音がして、封印の魔法が砕け散った。

      

「うふふ、また会いましょうね。星乙女ちゃん。それと、主人公側の皆様」


 キスを私に投げると、ゲートの中に消えていった。



**********


「なんなんですの! あの魔人おばさんは!」


 魔人おばさんって。

 リリーちゃんってたまに言葉遣い悪くなるよね。


「お姉ちゃんに投げキスするとか、許せないんですけど!」


 なんでナナミちゃんまで怒ってるのさ。


 ……この二人。


 微妙に似てる気がする。



 あれ? そういえば。


「リリーちゃんもグラウス会長も、なんでサキさんが魔人ってわかったの?」


 サキさんとダンジョンの奥で出会った時って。


 ストップの魔法を使った後だったから。

 二人ともサキさんを見てないと思うんだけど。


「あの時、動くことも聞くこともできませんでしたけど。見えてはいましたわ」

「僕も同じですよ」


 びっくりして、キナコをみると。

 キナコがやれやれっといった表情で手を広げる。


「あの時のご主人様、すごく弱ってたから。魔法の威力が弱かったんじゃないですか?」


 え?


 ちょっとまって。

 それじゃあ、魔人にキスされたのも……見られてたとか?


 それとなくきいてみると。


「倒れた状態で見てましたので……なにかあったんですか?」

「僕もです。でも……もしかして……」


「わー。見てないなら何でもないから! それ以上は無しで!」


 とりあえず、見られてないみたい。

 すぐ横で、ナナミちゃんがきょとんとした顔をしていた。

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