第35話 お嬢様と社交界デビュー


「この髪飾り、きっとクレナ様の桃色の髪に映えますわ」

「キナコ様、このドレスなんていかがですか?」

「ナナミ様には、このネックレスなんていかがでしょう」


 今私の部屋にいるのは。

 ドレス専門の縫製職人さんと、お母様、メイド隊の皆様。

 

 あと、ナナミちゃんと、キナコ。


 三人とも、朝からずっと着せ替え人形状態。

 最初のうちは楽しんでたキナコは、すっかり飽きたみたいで。

 ぼーっと外を眺めている。


 ナナミちゃんは、終始ご機嫌で。

 満面の笑みで私に話しかけてくる。


 二人がすごく対照的で面白いんですけど。


 ちなみに。


 今この部屋で一番楽しそうなのは、お母様だ。

 私たちのドレスを注文する為に、わざわざ人気の縫製職人さんをよんだんだって。


「うーん、悩むわね。こっちの見本ドレスもあります?」


 カタログをみながら、私たちに色んなドレスを着せていく。


「お母様、もう充分です。ここまで試着した中から選びますから!」

「ボクおなかすいたよー。これいつまで続くの……」


「お、お母様。ありがとうございます」

「いいのよ。やっぱり、その服も似合うわ。可愛い~」


 お母様が、ナナミちゃんの頭を優しくなでる。


「うふふ。三人共、会場で一番かわいくなりましょうね!」


 えー。

 別にそんなこと望んでないんですけど……。



 ナナミちゃんが来てから。

 我が家には、大きな出来事があって。


 私に……妹ができました!

 

 っていっても。お父様とお母様に子供が生まれたとかじゃなくて。

 養女に迎えたってことなんだけど。


 一人目は、ナナミちゃん。

 彼女は、そのままっていうわけにもいかないので。

 一緒に正式に、ハルセルト家の養女に。


 二人目は、キナコ。

 まぁ、キナコはすでに竜王ってことで有名だし。

 そのままでも大丈夫だったんだけど。

 ナナミちゃんのこともあるし、ついでにってことで。


 つまり。


 私と、ナナミちゃん、キナコは姉妹ってことになった。

 ちょっとびっくりだよね。


 ナナミちゃんに照れながら「お姉ちゃん」って呼ばれるたびに少しドキッとする。

 まるで前世みたい。


 キナコは相変わらず、「ご主人様」って呼んでるけど。



 で。

 なんで私たち姉妹が着せ替え人形になってるかっていうと。



 ――私たちが、もうすぐ十三歳の誕生日だから。



**********


 ファルシア王国では。

 貴族の子供は八~十二歳の間にお誕生日パーティーを開き、社交界にプチデビューするんだけど。


 十三歳からは、正式に社交界デビューすることになる。


 普通、自分の誕生日に一番近い舞踏会に参加するんだけど。



 私たちは王家主催の舞踏会に参加することになった。

 お父様の説明だと、『たまたま』一番近い舞踏会がそれだったんだって。


 ……ホントかなぁ。


 王家主催の舞踏会なんて、一年に一回しかないはずだし。

 この時期じゃなかったはずなんだけどな。


 

「一番豪華なパーティーでデビューなんて、素敵じゃない」

「お母様。出来ればあまり目立ちたくないんですけど……」

「それは無理よ。みんな、会場で一番カワイイわよ!」


 私たちはふんわりとしたレースにリボンのついた、お揃いの色違いドレスを着ている。

 結局、お母様との縫製職人さんが相談して、特注で作ったんだって。


 私が薄い水色で、キナコは黄色。ナナミちゃんが赤色。 

 すごくカワイイんだけど。


 ……これ絶対目立つと思うんですけど。


「ねぇねぇ、舞踏会って美味しいものずっと食べてて平気?」

「あまり食べてる暇はないと思うわ。挨拶周りが終わったら、ダンスのお誘いが沢山あると思うわよ?」

「えー」

 

 キナコがすごくがっかりした表情でため息をつく。


 小さい頃から全然変わってないよね、キナコって。

 本当に、食いしん坊ドラゴンなんだから。


 横にいたナナミちゃんを見ると、目がキラキラ輝いている。


「お、お姉ちゃん。お城の舞踏会なんて、ドキドキしますね。楽しみだなー」


 ナナミちゃんは、なんでもすごく嬉しそう。

 さすが、主人公。


 最近すごくポジティブな気がする。

 ゲームでもすごく前向きなキャラだったもんね。

 

 ……ホントに。ゲームの星乙女とそっくりなんだけどな。


 

 私たちを乗せた飛空船は、やがてファルシア王国の王都ファランに到着した。



**********

 

 舞踏会の流れは。


 初参加の人は、入り口で呼ばれてから入場して。

 主催者に最初に挨拶に行く。


 で、保護者と合流してから、会場の皆様に挨拶周りをして。


 挨拶回りが無事終了したら、あとは自由なんだけど。


 実際には、舞踏会って。


『出世のための人脈づくり』だったり。

『将来の花嫁・花婿候補を探す場所』だったりするので。


 初めての子はとくにダンスに誘われやすくて、すごく大変なんだって。



 私たちは、会場の入り口で、係りの人から呼ばれるのを待っていた。


 はぁ。

 緊張するよぉ。


 お誕生日パーティーのほうが楽だったなぁ。

 主役の子供にだけちゃんと挨拶すれば、あと自由だったし。


 ……それに。


 お誕生日パーティーって、基本的にシュトレ王子とペアでまわってたから。

 全然苦じゃなかった……と思う。



「お姉さま、楽しみですね!」


 ナナミちゃんが、嬉しそうに私の手を握る。


 キナコは、ナナミちゃんと対照的に、この世の終わりみたいな顔をしている。

 そんなにご馳走楽しみにしてたんだ。

 キナコらしいけど。


「ご主人様、ドラゴンになって飛んでいってもいい?」

「ダメに決まってるでしょ!」


 もう片方で、落ち込むキナコの手を握る。

 

 まだなりたてだけど。

 お姉ちゃんだもんね、私。


 うん、今日は。

 カワイイ妹たちと一緒に楽しもう!


 扉が開いて。

 係りの声の人声が響く。


「ハルセルト家の、クレナ様、キナコ様、ナナミ様。ご入場されます!」


 さぁ、行くよ!

 私たちは。扉の先にある、眩しい光の世界に進んでいった。

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