第25話 お嬢様とアランデール公爵家

 応接間には。

 ふくよかな中年の男性と、アランデール家の長女イザベラ。

 あと、魔星鎧スターアーマー を着た護衛の人が二人。


「やぁ、久しいな、ハルセルト伯」

「お久しぶりです、アランデール公爵」


 お父様とお母様のお辞儀に合わせて、私たちもお辞儀する。

 あの人が、アランデール公爵なんだ。


 人のよさそうな垂れ下がった目と、白髪の紳士。

 一見するとものすごくいい人に見える。

 

 みえるんだけど。

 なんだろう。

 少し……怖い感じがする。


 ふと、公爵と目線があった。

 ああ、この目だ。目だけ不自然に笑ってないんだ。


「クレナ様、先日は娘が失礼をしました」


 私は喋れないので、笑顔で返すしかない。

 先日っていうと。

 闘技場の決闘のことかな。


 横にいたイザベラとも目が合ったんだけど。

 緊張してるみたいで、ほとんど動かない。

 顔がこわばってて、少し震えてるみたいに見える。



「立ち話もなんでしょうから、どうぞお座りください」


 アランデール公爵と、イザベラが席に座る。

 

「二人とも、ごめんね」


 私たちも座ろうとした時、お母様が近づいてきて。

 小さな声で呪文を唱えた。


 次の瞬間。

 世界が無音になった。


 ――そっか。


 お父様とお母様は、何も聞かせたくないんだ。

 本当は参加させたくなかったのに。

 公爵様が、イザベラを連れてきたから、仕方なく参加させた感じなんだと思う。


 私たちのことを心配してくれてるのは嬉しいけど。

 嬉しいけど。


 でも、だって。

 もしこれが本当にクーデターだったら……。


 だれが、なんのために?

  

 ……これじゃなにもわからないよ。

 

 

 (ご主人様、聞こえる?)

 

 突然キナコの声が、頭に響いてくる。

 

 (ここの会話、聞きたい?)


 横にいたキナコを見ると、心配そうな瞳でこっちを見ている。

 私は、周りに気づかれないように、少しだけうなずく。


 (うん、それじゃあ、聞こえるようにするけど。表情を変えたらだめだよ)


 キナコ、そんなことも出来るんだ。

 すごいなぁ、ドラゴンって。

 もうほとんど変身する猫だと思ってたのに。


 次の瞬間。

 音がまた戻ってきた。


 戻ってきたんだけど。

 会話が全部、キナコに変換されてた。

 

 ……なにこれ。


「だからぁ、うちのほうが有利なわけね? 王都の周りの貴族も、こっちの味方だからね? 」


「それはこっちも情報集めてたから知ってるけど、なんで反乱なんておこしたの? 」


「王様がむかつくから。あいつダメじゃん? 星減ってるの防げないし、身分制軽視するしさぁ」


 みんなキナコなので。

 誰が何しゃべってるのか、よくわかんない。


「でね。あなた達が、セントワーグ公爵派なのわかってるんだけど、こっちの仲間になってよ」


「えー、それは無理だよ。というかなんで誘いにきたの? うちって代々セントワーグ派なんですけど?」

 

 口の動きをみながら、なんとか、誰が喋ってるのか理解しようとしてるんだけど。

 これ、すごく難しい。

 

 キナコが同時通訳してくれてるんだと思うんだけど。

 でも、公爵様やお父様の声がキナコって。

 すごくシュールなんですけど!


「まぁ、それは知ってるんだけど」


 公爵様が、私を見る。

 なんだろう?

 

 と、とりあえず聞こえてないってことになってるし。

 笑顔だけ崩さないようにしよう、うん。


「あなたの娘が、国民にすごく人気でしょ? 味方になってくれれば、もう戦わなくても勝ちなわけ」


 え?


「今の王家も、国民に人気あるでしょ?」


「あーあれは、国民というか、庶民にでしょ。庶民にこび売ってる感じだから。貴族には人気ないから」


 確かに。

 今の国王様って、すっごく街の人とかに近いなっておもってたけど。

 それって、ダメなことなのかなぁ。


「もし、ウチの派閥にはいってくれるなら。ここにいる長女を人質にさしだすから。ね、お願い!」


 思わず、イザベラの方を見ると。

 泣きそうな顔をして俯いている。


「そうだ! もし、味方してくれるなら。あなたの娘を養女にしてもいいわよ。公爵令嬢になれるわ」


 お父様は、終始笑顔で話してたけど。

 だんだん表情がひきつってきた。

 

 お母様なんて、もう完全に笑顔が消えてる。

 

「言いたいことはわかったけど。すぐには返事できないから。明日返事するね」


「オッケー。でも、なるべく早く返事してよね。もう一部では戦いはじまってるし、王都包囲しちゃってるから」


 会談が一通りおわったあと。

 公爵様は忙しそうに、飛空船に乗って戻っていった。

 


 イザベラは。

 明日迎えにくるからっていうことで。


 ……うちに置いて行かれた。



**********


 会談のあと。

 お父様とお母様からは、すっごく簡単に説明を受けた。


『貴族同士でちょっとした喧嘩になってるんだけど、まぁ大丈夫』

『でも、念の為、護衛もつけとくから。念の為だからね』

  

 こんな感じ。

 ウソは全然ないけど。

 さすがに簡単すぎませんか?


 ……念の為で、上空にあんなに軍艦飛ばさないとおもうんですけど?



 部屋にもどった私は、私は自分の部屋で、ベッドでゴロゴロしながら悩んでいた。


 キナコの通訳だったので、若干わからない所もあったけど。


 クーデターを起こしたのは、アランデール公爵家で。

 王都はすでに包囲されてる。


 有利だっていってたから、クーデターに加わってる貴族の数が多いんだと思う。


 それと。

 勧誘のされ方から考えると、セントワーグ公爵家は王家側について戦ってる?

  


 なにこれ。

 全然、ゲームの展開と違うじゃん!

 ゲームだとクーデターおこしたのは、セントワーグ公爵家で、アランデール公爵家って反乱抑える側だったのに!

 50%の予言、外れすぎだよぉ。


「ご主人様、ちょっとくつろぎすぎ~!」

「いいの! 悩んだ時にはベッドでごろごろするのが私流なんだから!」

 

 部屋にいるのは、私と、キナコ。

 あと、イザベラ。


 お母様が、同級生なんだから仲良くしなさいって。

 イザベラを客間じゃなくて私の部屋に案内したから。


 彼女は、部屋の隅でずっと立っている。


「ねぇ、ソファーもベッドも使って平気だから。リラックスして大丈夫だよ?」


「平気ですわ! ライバルの貴女に情けをかけてもらう必要はありません!」


 よく見ると。

 両手をぎゅっとにぎって、震えている。

 

 そっか。 


 そうだよね。

 私にとってはくつろげる部屋だけど。

 彼女にとっては……敵の陣営に人質として置いて行かれた状況だよね。


 もし私が、逆の立場だったら……。


 私は、彼女に近づくと、ぎゅっと背後から抱きしめた。


「な!?」

「大丈夫。親同士の話なんだから。子供は関係ないよ」


「そんなわけにはいかないでしょ! 子供でも貴族としての立場がありますわ!」

「うん、でも。それでも、大丈夫」


 なにが大丈夫なのか私もわからないけど。

 でも、こんなの間違ってる。

 イザベラも、まだ十三歳の女の子なのに。


 イザベラが、抱きしめてた私の手に触れてきた。


「前からおもってましたけど……アナタ本当にかわってますわね……」

「うん、よく言われる。なんでかなぁ?」


「うふふ、もう大丈夫ですわ。ありがとう」


 こちらを振り向くと、初めて普通に笑ってくれた。

 頬に涙が伝っている。

 

 怖かったよね。

 もう大丈夫。


 私は、ハンカチで彼女の涙をぬぐった。



「またですよ……この人……天然て本当にコワイ……」


 キナコさん?

 ちゃんと見てました?

 普通だったからね、今!

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