第23話 お嬢様と夏休み

「海じゃーーーっ!」


 ファニエ先輩の声が海岸に響き渡る。

 先輩の長い黒髪にワンピースみたいな白い水着がすごく似合ってて。


 両手を広げて走り回っている姿が。

 なんかすごく、カワイイ。


 

 私たち生徒会メンバーは、ファルシア王国の南にある海岸にきている。


 魔法学校は夏休みに入った。

 生徒会の活動も、もちろんお休み。


 せっかくだから休み中に皆で遊びに行こうっていう話になって。

 多数決で海に決定。

 

 山に行くか海に行くかみたいのって。

 なんだか前世を思い出すみたいで少し楽しかった。


 やっぱり夏っていえば。

 海か山だよね!


 でも。

 

 このメンバーで遊びにいくっていうのが……。

 私的に、問題が一つあって。


 ……あれから。

 シュトレ王子とも、グラウス先輩とも。

 なんとなくぎこちない。


 お互いが意識しちゃうというか。


 うーん、こういうのって。

 難しいなぁ。




「ご主人様、どうしたんですかーーー?!」


 ぼーっと考え事をしていたら。

 キナコが抱きついてきた。


「あはは、相変わらず、双子みたいだな」

「えへへ」


 ティル先輩の言葉にすごく嬉しそうな顔をするキナコ。

 

 私たちは。

 お母様が選んでくれた、色違いのお揃い水着を着ている。

 レースのついたビキニに、フリルのついたフレアスカートみたいな感じで。


 私が水色で、キナコが黄色。


 これ可愛いんだけど。

 おなかがみえてるのが少しはずかしい。



「クレナちゃん、かわいいですわー!!」


 リリーちゃんが、私の両手を握って、ブンブン手を上下させる。


 彼女は胸元におおきくをリボンをあしらったビキニを着ている。

 リリーちゃんのほうが、はるかにカワイイと思うんですけど!

 天使すぎる。


 でも。

 なんだか、顔を真っ赤にしてすごく嬉しそう。

 ここまで海好きなんて知らなかったよ。



「それじゃあ、おもいきり遊ぶのじゃ!」


 先輩の手が光りはじめ、魔法でボールを作り出した。


 この世界にも、ビーチバレーと同じような遊びがあって。

 乙女ゲーム「ファルシアの星乙女」でも、そんなイベントがあったと思う。

 

 夏休みに、攻略対象と一緒にビーチバレーを楽しむ的な感じで。


「さっそく。妾のチームに、キナコちゃんとリリアナ」


 ファニエ先輩が、キナコとリリーちゃんを指さす。


「あとは。シュトレ王子のチームに、グラウスとクレナにわかれるのじゃ!」

 

「オレは?」

「ティル先輩は、審判を頼みたいのじゃ」


「なるほど、引き受けたぜ!」


 ……え?


 何でこのチームわけ?

 すごく意図的な感じがするんですけど?


「おことわりですわ! わたくしをクレナちゃんと同じチームにしてください!」

「ほら、リリーちゃん。一緒に頑張ろうね!」

「はーなしてーー!」


 ファニエ先輩が近づいてきて、耳元でささやいた。


「何があったかはきづいてるのじゃ。せっかく機会をつくったのじゃから、早めに解決するのじゃぞ」


 えー。


 解決するといわれても。

 

 ……。


 ………。

 

 どうすればいいのさ! 




「考え事ですか?」


「あ、平気です。ちょっとぼーっとしただけで」


「僕の推理だと……。ダンジョンでみつけたペンダントのことですか?」

 

 ……ごめんなさい。

 全く考えてなかったです。


「帝国が、何かを企てているのは間違いないんですけど……まだ何もわかってないようですよ」


「そうなんですね」


 うん。でも確かに。


 かみたちゃんも、あの魔人も。

 これから王国が大変になるような話をしてたのに。


 なんだかすごく平和なんだけど。


 私たちが話してると。

 ボールがグラウス先輩の顔面に直撃した。


 あー……。

 ゲーム中だもんね、今。


「そこ! なに楽しそうにクレナちゃんと話してるんですか!」 


 今のリリーちゃんだ。

 ビーチバレー本気で楽しんでる感じ?

 


「……冷静な僕でも、少し頭に来ましたよ!」

「望むところですわ! クレナちゃんは絶対に渡しませんから!」



**********



 ビーチバレーをしばらく楽しんだあと。


 私は、岩場でボーっと海を眺めていた。



 同じチームだったし。

 シュトレ王子とグラウス先輩とは、普通に話せてたと思う。

 最近は、会話もぎこちなかったから。


 鋭い人だって、グラウス先輩も言ってたけど。

 うん。確かにそうかも。

 ファニエ先輩に感謝だよね。

   

「疲れましたか?」


 不意に、背後から声をかけられた。

 振り返ると、グラウス先輩がいた。


 水色の長い髪が陽の光で透けるみたいに光ってて。

 この人は本当に。


 ……美人だと思う。


「す、少し。でも、すごく楽しかったです」


 まずい。

 見とれて返事がおくれてしまった。

 少し慌ててこたえる。


 ……変な子だとおもわれたかも。

 恥ずかしい!



 今日の先輩はシャツの上からガウンを羽織ってるので体形が全然みえないし。

 声も女性みたいに高いし。

 

 ……どうしてもキレイなお姉さんにしかみえない。


「ねぇ、クレナちゃん」

「はい?」


 グラウス先輩の顔が近づく。


 ちょっと。

  

 近い!

 近いんですけど!


「チャンスをくれませんか?」


「チャンスって、なんのですか?」


「この間の話。クレナちゃんが十五歳になるまでは、今まで通りのお友達でいいですので」


「ねぇ、先輩。……私じゃなくても、その頃には先輩にお似合いの人が現れますよ?」


 きっと、その頃には星乙女ちゃんが召喚されている。

 先輩も、ゲームと同じように星乙女ちゃんに惹かれると思うし。

 

 だから。


 今だけ……なんだけどな。

 

「……ありませんよ」


「え?」


「貴女以外なんて、考えられません……」


 顔がさらにちかづいてくる。

 

 ええええ。

 ちょっとストップ!


 慌てて、先輩の顔を手で押し返そうとしたとき。



「油断も隙も無いな。彼女はオレの婚約者だぞ!」


 後ろから大きな声が聞こえた。


 ネイビーと白を組み合わせたショートパンツ姿。

 金髪のイケメンスマイルと引き締まった体。


 ずっと思ってたけど。

 今日の王子、すごく……カッコいい。



 王子は、グラウス先輩を押しのけて、かばうみたいに私の前に立った。


「今は、ですよね?」


「これからも、だ」

 

「……決めるのは、彼女でしょう? それじゃあ、僕は向こうに戻りますね」


 グラウス先輩は片手をひらひらとふって、みんなのいる浜辺に戻っていった。


 

「ごめん、勢いでいってしまった」


 先輩が去った後。

 目があった王子は、顔を真っ赤にして、頭を下げてきた。


「え? ううん。謝られるような事はなにもないよ?」


「約束はまもるよ。でも、クレナさえよければ……」


 あー。

 その話ね。


「うん、約束したからね、十五歳まではがんばるから!」


「……そうか」


 あれ?

 何でそんな悲しそうな顔になるの?


 ――困ったなぁ。

 そういう顔させたいわけじゃないのにな。


 すごく。

 胸が痛いよ。


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