第21話 お嬢様と魔法の鎧

 お母様は、私の冒険者になりたい夢を応援してくれて。

 稽古もしてくれるってことになった。

 


 そして。

 今日は、ついに剣の訓練をつけてもらう日だ!

 昨日の夜からもう、ずっとワクワクしている。


「嬉しそうだね、ご主人様」

「当り前だよ! やっと冒険者のスタートラインに立てたって感じだよ!」

「よかったね。ボクはここで寝てるから、頑張って」

「キナコはついてこないの?」

「ボクは今日忙しいからね」


 部屋の出窓で丸まって、ゴロゴロしている。

 このおしゃべりドラゴン、前世は猫だったに違いない。


「おとなしく、お留守番してるんだよ?」

「うん、大丈夫ー」


 ホントかな?

 私は、キナコに言い聞かせた後、お母様の待つエントランスに向かった。



「はーい、これがクレナちゃんの練習鎧ね」

   

 持ってきたのは、真っ白な魔星鎧スターアーマー。 

 胸のパーツを持ち上げてみる。凄く軽い。金属っぽいからもっと重いかと思ってた。


 お母様に手伝ってもらって、すべてのパーツを着ることができた。  

 鎧は魔道具なので、自動でその人のサイズになるんだって。 


 鏡の前で、くるりと一回転してみる。

 真っ白な鎧で胸に小さな魔法石が付いている。

 うん、なんだか、ファンタジー小説の主人公みたい。

 嬉しい!


「うふふ、似合ってるわよ」

「お母様、ありがとうー」

 

 お母様は、真っ赤な魔星鎧スターアーマーを着ていた。

 前に倉庫で見つけた鎧。やっぱりお母様のだったんだ。


「さぁ、いきましょうか、クレナ」


 お父様は、後ろでおろおろしている。

 お母様のことがあって、冒険者になるのは反対みたいなんだけど。

 私たちの為だけど、嘘をついてたのもあって強く言えないみたい。 


「気を付けるんだよ、クレナ。危なくなったらすぐ逃げるんだよ」


 心配そうな瞳で私を見つめている。

 あの、お父様?

 ……逃げるほど危険なんですか?



 お母様と私は、屋敷の裏側のお庭を抜けて、森への道を進んでいく。

 しばらく進むと、開けた景色が広がった。


「ここがクレナちゃんの為に作った訓練場ですー」


 広がった空間に進むと、両手を広げて私に微笑んだ。


 そこは、森を切り開いた、すごく広い空間になっていた。

 地面には、魔法の芝生が敷き詰められていて。四隅には大きな魔法石が置かれていてキラキラ光っている。

 奥には、カカシみたいな的の人形がたくさん立っている。

 上を見上げると、空に結界があるみたいで、薄い光が見える。 


「お城の訓練場より、丈夫なはずよ。これならクレナちゃんの訓練もバッチリ!」 

「ありがとう、お母様!」


 私はお母様に抱きついた。


 

「うふふ、それじゃあ初めに、魔星鎧スターアーマーを起動させましょう」

 

 お父様が、ワイバーンと戦った時のことを思い出す。

 えーと、確か。

 

「ヘルメットのバイザーおろすの?」

「あー、お父様の戦闘を見たのね」

「うん、ヘルメットを下ろしたら鎧が光りだしたから」

「あれはね、リードがカッコつけてるだけよ」


 目を細めながらクスクスわらっている。

 

「今から起動させるから、魔力の流れをよーく見ててね。まず、自分の魔力を魔法石に流すの」

「……魔力の流れ……」

「次に、鎧全体に魔力をいきわたらせるイメージね」


 お母様の鎧がキラキラ輝きだす。

 胸の魔法石のあたりから魔法の帯が流れ出して、背中まで伸びた魔力帯が、真っ赤な翼の形になる。 


「こんな感じで、魔力の流れを操作するのよ。もう一回見てみる?」

「ううん、やってみる」


 お母様の真似をして。

 ……えーと、魔法石に魔力を流して、鎧全体に。

 

 鎧の魔法石がキラキラ光出し、背中に小さな魔力の翼が現れた。


「これで、できてる?」

「ええ! バッチリよ。こんなにすぐ出来るなんて。さすが、私とリードの子ね」


 お母様は満面の笑顔で、私の頭を撫でる。

 やった、褒められちゃった。えへ。


「次に、武器なんだけど。これは、鎧の魔法石にイメージすると、その人の思考をよみとって具現化するの」

「……具現化?」

「そうねぇ、こんな感じよ」

 

 お母様の右手が光りだして、キラキラ光る剣があらわれた。


「武器にも人によって向き不向きがあるわ。剣や槍、弓を使う人もいたわね。魔法を主に使う人は杖を使うわ」


 そうえいば、お父様は剣でワイバーンと戦っていた。


「ねぇ、お母様も剣を使うの?」

「ううん、剣は苦手なのよ。私が使うのはこれね」


 右手が再び光る。

 光の剣は消えて。お母様の身長の二倍はありそうな、赤くて長い光が現れた。

 細長い円の針のような形で、持ち手の部分が傘みたいに広がっている。


「これはね、ランスっていう武器よ」


 なにこれ。

 スゴイ! すごくカッコいい。


「お母様、私もランスを使いたいです!」  


 興奮気味にうったえる。 

 お母様は、少し困った顔をした。


「うーん、コレあまりおススメじゃないのよねぇ」

「ダメなの?」


 少し考えるポーズをしたお母様は、武器を構える。


「どんな武器なのか、やって見せるわね」


 お母様は空に浮かびあがると、そのまま、上空の結界近くまで飛んでいく。


「いくわよー!」

 

 上空から、的のカカシ人形に向かって、一直線に向かっていく。

 お母様の鎧も翼の色も赤いから。真っ赤な光が突き刺さるように見えた。

 命中した的が粉々に砕け散る。

 再び上空に飛び上がると、私の前に着地した

 

 ……すごい、スゴイスゴイ!


 お母様が、『赤い槍』って言われてたのが、よくわかった。


「ふぅ、こんな感じの武器なの。大型の魔物向けだから、使うのが難しいのよ」

「お母様! やっぱり私、ランスを覚えたいです!」


 キラキラとした瞳でお母様にうったえる。

 お母様は、困った顔をして私を見つめる。 


「うーん、そうねぇ。じゃあまずは、基本の剣から覚えましょう」 

「えー」


 お母様は私の目線に合わせしゃがんで中腰になった。

 私の頭をなでながら、優しい声で話しかける。


「まずは剣を覚えましょうね。その後まだランスを使いたかったら、教えてあげるわ」

「……ホントに?」

「ええ、約束よ」

 

 笑顔で、小指を差し出す。

 私はお母様とゆびきりをした。

    

 お母様は、剣はあまり得意じゃないけど。

 昔の仲間達をみてきたから、教えることは出来るんだって。



「おかえり、訓練どうだったー?」


 部屋に戻ると、キナコが部屋の隅でまるまっていた。


「聞いて聞いて!、お母様がすごくカッコよかったの!」

「あー、『赤い槍』の二つ名もちだもんね」

「うんうん。ホントにすごかったんだから! キナコも見に来ればよかったのに!」

 

 絶対練習がんばる!

 そして、いつか。お母様みたいにランスを使うんだ。


「そっか、ご主人様が嬉しそうでよかったよ!」


 ん?

 よくみると、キナコの動きが怪しい。

 後ろに何かあるよな?


「ねぇ、キナコ? 後ろになにか隠してない?」

「別になにもないよ?」


 嫌がるキナコを抱き上げると、ボロボロになった枕があった。 

 まさかこれで爪とぎを……。 

  

「……嬉しそうなご主人様なら、許してくれるよね?」

「キナコーーーー!」 



**********


 それから、私の日課に、お母様との訓練が加わった。

 訓練は大変だけどすごく楽しい。

 

 最近は、お母様だけじゃなくて、お父様も教えてくれるようになった。

 お父様曰く、「冒険者を反対するのは諦めた。それなら、すごく強くして危険から守れるようにする」んだって。

 お母様は横で笑っていた。


 ちなみに、キナコはお留守番禁止なので毎回ついてきてる。


「ねぇ、ボク眠いんだけど」

「うーん。そうだ! キナコも一緒に練習したらいいじゃん」

「えー、なにを?」

「魔法の使い方とか? ドラゴンって魔法覚えるみたいだし」

「そんなことしなくても、ご主人様が魔法かけてくれれば平気だよ~」


 訓練場の芝生で丸まるおしゃべりドラゴン。

  

「そっかぁ、もし頑張ったら美味しいケーキを作ろうかなって思ったんだけどな~」

「よーし! 魔法だよね! ボクも頑張るよ!」

 

 なにやら、訓練場の端でポーズをとって動き始めた。

 動機があれだけど。

 多分、寝てるより楽しいよね!


 

 そういえば。


 訓練をはじめてから、ずっと気になってたことがあった。

 私の魔星鎧スターアーマーの羽は……すごく短い。

 お母様やお父様と比べると半分の長さもない。

 ……訓練用の鎧だからなのかな。

  

 ある日、お母様に尋ねてみた。


「お母様。私の鎧ってお空を飛べないの?」

「ううん、ちゃんと飛べるわよ?」

「でも。羽も短いし、ジャンプしてもすぐ落ちちゃうし」


 お母様が、なにかに気づいたみたいで。思い出し笑いをする。


「あー、それで休憩中によくジャンプしてたのね」

「……うん」


 お母様は、私の目線に合わせしゃがんだ。 


「それはね、魔力操作がまだ上手にできないからよ」

「……訓練を続けたら、飛べるようになるの?」

「ええ、飛べるわよ」


 そっか、まだお父様やお母様みたいには飛べないんだ。

 落ち込んでいると。

 

 お母様が、私の顔を覗きこんでにこっと笑った。

 

「それじゃあ、明日の訓練は、お出かけしましょう!」

「お出かけ? どこに?」

「うふふ、ナイショよ」

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