第6話 その頃の3匹
「アスランテ、はやっ。普段のトロさが嘘みたいだよなっ。ムーラン」
ロドリゴは、小路を走り抜けて行くアスランテの後を追いながら、呑気な事を言っている。身体強化をかけているのでかなりの速さだ。
「アスランテはトロくはありません」
それにしても、この化け物並の体力を持つロドリゴは息も乱していない。流石だと思う。
私は少々疲れた気がする。
「しっかし、ムーランのその恰好笑える」
私は普段から長衣を身に着けている。だからバサバサはためく衣服が面倒で、腰の辺りに捲り上げて走っていた。
だが、生足を見せている訳では無い。白いズボンを下履きにしている。見れたものではないが・・・。
「好きでやっているわけではありませんよ」
「うひゃひゃ、そんな恰好するお前を初めて見たよ」
「そうでしょうとも、私も初めて致しましたから。・・・貴方、その笑い方下品ですよ。それと、アスランテが向かっている先はわかっていますから、私はもう少しゆっくり行かせて頂きます。どうぞ貴方はお先に」
そう一言いって、私は速度を緩めて、たくし上げていた衣服を下に下す。
「まったく・・・」
どうせ、こんなに急いで向かっても、巫女姫はとうにズラかっているだろう。
この道を行けばエルフ村だ。エルフの村で『緑の巫女姫』の力をつかったのだろう。その経緯は大して考えずとも何となくだが分かる。
巫女姫が七年の浄化の旅で、国のやり方に憤りを感じていたのは知っていた。だが、彼女にはどうする事も出来なかった。私達とて同じだ。
私達三人が早々に彼女を連れて浄化の旅に出たのは、彼女を殺させない為でもあったのだ。
役に立たない異世界人等、城に置いておけば殺される。それが分かっていたからさっさと城から連れて出たのだ。
そうして今、またこの国に巫女姫が戻って来たのならば、その力を使い未浄化の地を巡るという行動はしっくり来る気がしたのだ。
ベリン国には王家の下に三大公爵家がある。
ロドリゴ・ベル・ラターソ。ラターソ家は王家の血が多く注がれた名家で赤い髪色が一族の特徴だ。
私は、ムーラン・レノ・ミケロ 三大公爵家のうちの一つミケロ家の者だ。うちは金髪が多いがこの国の貴族には金髪は多い。
三大公爵家とは、ラターソ家、ミケロ家、そしてヴィドル家の三家になる。
アスランテ・ヒュー・ヴィドル 北の大公爵家と言われる。
その直系は純白の髪とアイスブルーの瞳を持つ。聖魔法の使い手が多く輩出される家系だが、北方の端に位置する場所にその一族は住む。
この国の王族貴族は魔力持ちだが、その中でも極稀に、スキルを持って生まれて来る場合がある。
そのスキルは成人の儀で発見、発動するのだ。
それが、ロドリゴの魔道師、アスランテの聖騎士、私の神官に当たる。
スキル持ちであったため、何かと私達三人は成人後、行動を共にする事が多かった。
そういえば、ロドリゴは幼少時に死にかけた事があったはずだ。私も何かの折に他所で聞いた話だ。
ラターソ領の近辺に獣人のコロニーがあり暴動があったのだ。秘されているので、詳しい事は流れて来なかったが、たまたまその時近くにいたロドリゴと母親が巻き込まれ、一緒にいた母親は暴動で亡くなっている。
その母親が現在の王妹に当たるのだが、ロドリゴ自体はとてもそんな血筋の者には見えない雰囲気の人物だ。
ふだんはこんな馬鹿丸出しの男だが、獣人嫌いはそこから来ている。
他の種族に対してはそんな様子も見せないのに、獣人は傍にいると分かっただけで、殺気を飛ばす。
それは生い立ちによるものなら仕方のない事かもしれない。
少し後から到着した私の目にも、エルフ村は緑の美しい村だった。
情報によると、不浄の地のまま捨て置かれ、生活すら困難な状況だと聞いていたが、緑に包まれている。
先に到着していたアスランテとロドリゴは、その村の状態を直接村の長老に聞いていた。
私達の外見的特徴からエルフ達は三賢人だと判断したようだ。排他的な雰囲気はなく友好的な態度だった。
「やはり、エリザベスは外見を変えているようだな。前のギルドで聞いた男児が村を浄化してくれたらしい」
ロドリゴの言葉にやはりそうかと思う。
「彼女を私は追いかける。お前たちは必要ないので戻れ」
「何言ってんだ。俺は戻んないぜ。どうせ俺達三人は暇なんだし、このままエリザベスが何をするのかゆっくり追っていけば、そのうち捕まえられる。俺だってエリザベスに会いたいんだ」
「・・・アスランテ、慌てて近づいても逃げられます。彼女を守りたいのなら、距離をおいてゆっくりと詰めていった方が良いでしょう。あまり目立つと王族側に目をつけられますよ。それは巫女姫にも良くないでしょう」
「・・・」
「すーぐに黙っちまうからな」
「貴方は煩いだけです」
いつものごとくの三人だった。
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