ソフィア・エルモンド
私はソフィア。ソフィア・エルモンドよ。この世界の主役でありヒロインなの。
どうしてそんなことを言うかって? だって私には前世の記憶があるんですもの。
その前世の私がハマりにハマっていた乙女ゲーム『この輝く世界で恋をして』の続編の世界に、ヒロインとして転生できたと知った時は天にも昇る嬉しさだったわ。
そもそも私の前世は全くいいことがなかったの。
一応名家に生まれたのに誰も彼もが兄ばかりに期待して、女の私は落ちこぼれと決めつけられたわ。
両親は私を邪魔者みたいに扱うし、それを見て使用人達も私を見下してきて誰も寄りつかなかったわ。
まあでもお金だけはくれたから大好きな乙女ゲームを買い漁って、誰にも邪魔されずに没頭することができたのは唯一のいい点だったわね。
でも部屋で籠ってゲームばかりしていたら、突然心臓発作を起こしてそのまま一人で死んでしまったわ。
きっとそんな私を神様が可哀想だと思って、ヒロインに転生させてくれたのね。
正直理由なんてどうでもいいわ。私がソフィアである事実が大事なの。
そうそうまだ私が幼い頃、この世界の両親は私が魔法を使えないことを酷く気にしていたわね。
まあ私はそのうち光魔法が発現するのがわかっていたから、全く悲観なんてしなかったわ。
だけど両親はそんなこと知らないから、私のような娘を表に出さないようにしていたわね。
それに変に距離も取られていたし。
でもそんなのどうでもよかった。だって両親はただのモブなんですもの。気にする価値もないわ。
そうして成長した私は、ようやく光の魔法が使えるようになったの。
それを知って両親は大喜びしたけれど、これでようやく堂々と表に出せると思ったのね。
その証拠に、夜会の招待状が届いたからどうするか聞いてきたわ。
そんなこと今まで一度も聞いてこなかったのにと思いながらも、ゲームとは関係ないのだから断るつもりでいたわ。
でもその夜会にヒースが参加すると聞いて、まだゲーム開始前ではあったけれど会ってみたくなったの。
夜会当日、身内だけ集めた社交界デビュー以外では初めての社交場に出た私を、皆は嘲笑するような目で見てきたわ。
しかし私にはそんな視線、痛くも痒くもなかったの。
だって所詮モブがなんと言おうと、主役は私なのだから。
私は堂々と会場内を歩き、目的の人物を探したわ。
そして大勢の女性に囲まれているヒースを見つけて、ほくそ笑む。
「ふふ、やっと見つけましたわ。それにしてもやっぱりゲームの通りの見た目ですわね。天使のように愛らしいわ」
前世で見たゲームの中のヒースと全く同じ。
やっぱりここは『輝恋』の世界なのだと再確認することができたわ。
私は迷うことなく一直線にヒースのもとに向かったの。
そのヒースは近づいていく私に驚いてはいたけど、すぐに貴族らしく笑みを浮かべてくれたわ。
(生ヒースいいわね~!)
歓喜にうち震えながらも、ヒースの前に立つとまじまじとその顔を見つめてみた。
そんな私の視線にヒースはたじろいでいたけれど、そんなこと構わなかったわ。
そしてニンマリと笑うと、ヒースに向かって言ってあげたの。
「ここでは初めましてね。私はソフィア・エルモンドよ」
「ここでは? ……まあいいや。ソフィア嬢初めまして。僕はヒース・ロン・ランペールと言います」
「よろしくね。それにしてもヒースがこれだけ忠実なら、残りの三人も期待できますわね」
「?」
ヒースが戸惑いの表情で小首を傾げているけど、そんな姿も可愛らしいと思ってしまったわ。
「ふふ、ヒースは近い未来、私を選ぶことになるのよ」
「…………は?」
その表情も愛らしいけどごめんね。
だって私、どの乙女ゲームでも好みの年上キャラから落とす主義なの。
だから年下キャラのヒースは後回しになるのよ。
「だけどヒースは私の中で四番目だったし、攻略は一番最後にしてあげるわね」
そう教えてあげたのに、ヒースはポカンと口を開けて固まってしまったわ。
さらに周りにいた令嬢から鋭い視線を向けられる。
でも平気。だって貴女達モブがどんなに頑張っても、ヒロインである私には勝てないのだから。
そう思いながら見下すようにモブの令嬢達を見てやった。
すると頭に血を昇らせた令嬢達が私に詰め寄ろうとしてきたわ。
だけど私は相手にする気もなく、ヒースを見るという目的も済んだことだしさっさと家に帰っていったの。
それから数日後、お父様からテレジアがこの国に来ていると聞いて、もうすぐゲームが始まるとワクワクしながらその時を待っていたわ。
すると私のもとに、城から舞踏会の招待状が届いたの。
私は即答で参加することを伝えたわ。
そして当日には、ゲームのプロローグに着ていたドレスに身を包み城へ向かった。
そこでとうとうゲームが開始したのよ。
期待通り残りの三人も素敵で、特に推しであるフレデリック様の麗しさは格別だったわ。
そんなフレデリック様を間近で見れて、さらにこの先、私に向かって愛を囁いてくれるのかと思うと今から楽しみで楽しみで。
だけどこのままゲームの通りに進むかと思っていたのに、少しイレギュラーが発生していたわ。
悪役令嬢であるテレジアが、なぜかフレデリック様の婚約者ではなく部下として登場したのよ。
まあでもそこまで問題ではないと、気にしないことにしたの。
その後もなぜかゲームとは違う展開になったりしたけれど、最終的には聖女と認められて大聖堂の居住区に住むことができたわ。
これで攻略対象者達とのイベントをどんどん起こせると思ったの。
でもどうしてかイベントが上手く進まないのよ。
ヒロインである私が話しかけても皆素っ気ないし、そこで登場するはずもないテレジアがいつも現れるし。
いくら悪役令嬢だからって、関係ない所で邪魔をしない欲しいわ!
それにどうも攻略対象者達が、皆テレジアに好意的なのも納得いかないわ。
あの女はただの当て馬なのよ!
それなのに皆テレジア、テレジアって全然私のことを見てくれないのはどうして?
やっとテレジアの邪魔が入らない内にヒースとのイベントを起こせそうだったのに、なぜか邪険に扱われてしまったわ。
さらにヒースは、ゲームではなかったテレジアを姉さんって呼んで慕っていたのよ。
納得がいかないわ。私がヒロインよ! テレジアではないわ!
そもそもテレジアもテレジアよ。
ちゃんと悪役令嬢らしく私を虐めてくれないと、断罪イベントに繋がらないじゃない。
それなのに目障りにうろちょろするくせに、何もしてこないんですもの。
本当にイライラする女ね。
あの女が自分の役割をこなさないから、本命のフレデリック様とのイベントが一向に起こらないのよ。
図書室でのイベントも、きっとあの女がフレデリック様を引き留めて阻止していたのだわ。
だったらフレデリック様に、私の聖女としての力を知らしめてこちらを見て貰おう。
確かもうすぐ疫病イベントが起こるはずだし、そこでゲームの通りに病人を治せば力を示せるわ。
そうして疫病が国中で流行りだし、保護施設に多くの患者が収容されたと聞いた私は、教会関係者を引き連れてそこに向かった。
本当は直接フレデリック様に私の力をお見せしたかったのだけれど、今とても忙しいと断られてしまったの。
だから代わりに証人になってもらうために、教会関係者を連れていったのよ。
意気揚々と保護施設の扉を開けた私は、あまりの臭さに鼻と口を手で塞いで立ち止まってしまったわ。
本来なら中まで入ってイベントを起こすのだけれど……絶対無理!
早くこの場を離れたかった私は、中で寝ている患者の顔を見回して目的の男を見つけたの。
すぐに教会関係者に指示を出してその男を私の前に連れてこさせたわ。
男から漂ってくる臭いに思わず逃げ出しそうになったけれど、なんとか踏み留まってその男に癒しの魔法をかけてあげた。
するとみるみる内に男の顔色がよくなって、完全に病気が治ったのよ。
それを見た教会関係者が私を褒め称えてくれたから、今回のことはきっとフレデリック様の耳に入るはず。
そう思ってほくそ笑んでいると、他の病人達が自分も治して欲しいと私に群がってきたの。
だけどイベントで治していたのはこの男だけ。
他のモブを治してあげる義理なんて私にないのだから。
私はもう一秒たりともこの場に居たくなくてすぐに去ったわ。
でも目的は達したし、フレデリック様は私を認めて興味を持たれるはずよ。
そうすれば、後は二人のイベントをいくつかこなし最後の断罪イベントを経て私達は結ばれるの。
ああ~楽しみだわ~。
だけど私が保護施設を離れた後、フレデリック様がそこで倒れたと聞いた。
これは絶好のチャンスだと思ってすぐにフレデリック様の私室に向かったのに、侍女達が私の邪魔をして寝室に行くのを止めてきたの。
それでも私は扉を開けてフレデリック様の寝室に飛び込んだのに、すでにテレジアがそこに居たのよ。
さらに私がフレデリック様に近づくのを阻止してきて腹が立ったわ。
私ならすぐにフレデリック様を治してあげられるのに、それもわからないなんて馬鹿なの?
さらにアスランもテレジアの味方をして、私を強制的に部屋から追い出したのよ。
結局何度フレデリック様の部屋に向かってもアスランの魔法で中に入れず、朝を迎えてしまったわ。
まあフレデリック様はすぐに回復したそうだからよかったけれど、私が治して差し上げたかった。
それにしても疫病患者を私が魔法で治してあげたのに、なぜか一部の間ではテレジアのことを聖女と呼ぶ者がいるらしいと聞いたわ。
悪役令嬢が聖女? そんなのあり得ないわ!
聖女は私よ。そもそもテレジアに光魔法なんて使えないじゃない。
どこまでも私の邪魔をする女ね。
目障りだわ。……もう悪役令嬢なんて要らないから、消えてくれないかしら。
テレジアに対してのイライラを募らせながら大聖堂を歩いていると、ノアの姿を見つける。
私は一旦テレジアのことを忘れノアと話をしようと近づいていったのだけれど、ノアが何かを見ていることに気がついたの。
その視線を追って見てみると、そこには私にすごく吠えてきたあの黒い犬とテレジアが雪の上で戯れている姿があったわ。
「またテレジアなの!」
私は苦々しい思いでテレジアを睨みつけ、もう一度ノアの顔を見てみた。
そしてその瞳の奥に仄暗い炎が宿っていることに気がついて、私はあることを思い出したの。
「確かノアのルートを進めていると……ふふ。いいことを思いついたわ」
ニヤリと笑うと、私はノアに近づいていったのだった。
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