メタナカー世界五分前ラノベ仮説ー

一姫二太郎

第1話 世界五分前ラノベ仮説

 これを読んでる君は『世界五分前仮説』という言葉を知っているだろうか。


 それは、私のような学識のある者の間でまことしやかに囁かれている。この世界の成り立ちに関する仮説である。

 物の本いわく、『今、私達がこうして生きているこの世界は、神によって五分前に創造されたばかりの世界ではないのか?』という荒唐無稽な内容だ。

 これに対して、「そんなの嘘だね。だって、俺は十分前、三時のおやつにカントリーマアムを食べた。その仮説が正しいんだったら、あのカントリーマアムはなんだったんだ? 口の中に広がったあの濃厚なチヨコレートの味わいが幻だったとでもいうのか! ふざけんな! カントリーマアムに謝れ!」という反論も当然あるだろう。

 しかし、そうではないのだ。

 いうなれば、『《五分前にカントリーマアムを食べたばかりの自分》という存在として、五分前に、この世界に置いて作られたのではないか』……という話であるのだ。《五分前にカントリーマアムを食べた》という認識を持ったまま、五分前に世界に作り出されたのだ。従って、体感としては、《十分前にカントリーマアムを食べだ》となるわけだ。

 しかし、そんな細かい話は、この際どうでも良い。

 何よりも、これ以上、この件に関して深入りし、そっち方面の専門家の方々に、心身ともに再起不能になりそうなほどの、手厚いご指摘を受けたくはない。

肝心なのは、『世界五分前仮説』というものがあるとすれば……


『世界五分前ラノベ仮説』


 というものがあっても、不思議ではないということだ。

この世界は、もしかしたら、『五分前に書かれたラノベ』の世界かもしれない。

今、一介の男子高校生の私が、歩いているこのアスファルトの地面も。

今、目の前を歩く小汚い野良犬がションベンをかけている電信柱も。

 今、私がおろし立ての真っさらなスニーカーで思い切り“グニュリ”と踏んでしまったその犬のウンコも。

森羅万象、全ては、『五分前に書かれたラノベ』の文章であり。

私が、このように犬のウンコを踏んでしまったのは、そのラノベの文章を書いた作者のせいであり、決して、私自身の不注意によるものではない!

だから、無様な醜態を晒している私に対して、今、『ウンコマン』『ウンコマン』と低俗なあだ名を投げかける、私の後ろの小学生たちは、即刻態度を改めるべきである!

 きっと、外出自粛の最中、部屋に籠ってニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら筆を滑らせ、天高くで私達の様子を見ながら、腹を抱えて大笑いをしている彼奴に向けてこそ、そのあだ名はふさわしい。

 さあ、小学生よ、叫ぶのだ。

 天に向けて高らかに『ウンコマン』とっっ!

そして、『ウンコごときでは、箸が転んでも面白い年頃の小学生でも笑わねーぞ』と今の話の展開に苦言を呈するのだ!


……いかん。少し取り乱した。


閑話休題。

 さて、その『その世界五分前ラノベ仮説』についてである。

 私は、常日頃から、この仮説を提唱してはいたけれど。これといった確証には至ることができずにいた。

 しかし、今、この瞬間、私は確信した。

やはり、この世界は、五分前に書かれたラノベの世界だったのだ!

なぜ、そう思ったのか。その根拠は簡単。


――私は頭の中でする独り言が多すぎるっ!


いわゆる独白、モノローグというやつだろうか。演劇や漫画の界隈などでもみられる声に出さないキャラクターの台詞である。

そして、私は、そのモノローグというものを見るたびに、いつもこう思っていた。

『おいおい、こいつ、頭の中でしゃべりすぎだろ、ありえねー』と。

そして、これは、今の自分自身に対しても、同じことが言える。

『おいおい、こいつってか、自分って馬鹿かよ。頭の中で一人でしゃべりすぎだろ、ラノベの主人公じゃねーんだぞ!』と。

 そう、ラノベ……正確に記すならばライトノベルの主人公。

 さっきから、頭の中で永遠にモノローグを垂れ流す私は、ライトノベルの主人公になってしまったのではないだろうか。

 モノローグの内容的にも、漫画や演劇の主人公というわけでもあるまい。

というか、こんなにも長くかつ、くだらないモノローグのある漫画や演劇をお金を払ってまで見たいとは思わない。

 ここまでの長さの独り言が成り立つのはラノベか、純文学か、はたまた評価の低いAmazonのレビューのコメント欄くらいだ。

 そして、私が、そんなライトノベルの主人公であるとすれば、それすなわち、この世界もライトノベルの世界であるということの証左となるだろう。


 さて、前置きがだいぶ長くなってしまったが、これが私の『世界五分前ラノベ仮説』の解説とその論拠である。

 そして、私は願う。

 いや、健全な男子たるもの願わざるを得ないのだ。

 それは、重力に抗えない地球人がごとく、ベルが鳴るとヨダレを垂らしてしまうパブロフの犬がごとく、テレビで天空の城ラピュタが放送されると「バルス!」とツイートせざるを得ないツイッターの民がごとく、不回避にして、絶対的たる願い。

これから始まるであろう、この物語が……


 どうか、キャッキャでウフフで嬉し恥ずかし、美少女よりどりみどり、ポロリもラッキースケベもあるんだよ、な激甘ハーレムラブコメでありますように。

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