第23話
演技なのか本音なのか。俺自身分かってもいない言葉が出てくる。別にコルロルに死んでほしいわけじゃない。俺個人としては、コルロルに対して自然な好意を抱いている。一人の少女を想い続けてきた怪物。いい話じゃないか。見た目とは裏腹の臆病っぷりにも、親近感が湧かないわけじゃないし。でも悪いが、目の前の大金を棒に振ってまで助けたいってわけでもない。
「ライアン、心配してるの?」
「へ? あ、ああ、そうだな」
「……ありがとう」、なぜか苦虫を噛み潰したような顔をする。
「おいおい、表情と言葉がマッチしてないぞ」
「レーニスは僕より君が好きらしい」
「彼女は誰も好きじゃない」
「じゃあ僕たちは、よりどっちが嫌いかっていう低レベルなところで戦っているんだね」
「戦って……」
なんだ? 俺を恋敵とでも思っているのか?
「もし僕が殺されたあと、まあそうなることはほぼないだろうけど、万が一、僕が死んで君が生き残っていれば、レーニスのことを任せたい」
万が一、の部分を強く押し出して言う。俺は呆気に取られた。
「俺に任せるのか? 君が?」
「君しかいないんだからしょうがないじゃないか。テディーには頼めない」
「まあそれはそうだな。それに、あのぬいぐるみはどこかへ行ってしまったらしい」
「どこかへ行った? って……なんでちゃんと持ってないだ。迷子になって泣いてるかもしれない」
「そう責めるなよ、君はあのぬいぐるみの親か? 元々この山にいたんだし大丈夫さ」
まだ何か言いたげだったが、今はそんな場合じゃない。コルロルは「……とにかく」と話を戻した。「君は信用できるかもしれない」
「俺が?」、自分でもびっくりしてしまう。「なぜ?」
「知らない? ライアンってヒーローが出てくる物語。名前が一緒だし、君はそいつに似てる」
「それは知らないけど、君が物語の世界まで楽しんでいるのは意外だよ」
俺はライアンというヒーローが活躍する物語を知らない。自分で適当につけた名前が、たまたまそのヒーローと同じだっただけだ。
「だからもしものときは、ライアンに任せる」
頂上を見上げ、またすぐに歩きだす。
歩みがはやい。爆弾へと、もの凄いスピードで接近していく。まるで死に急いでいるみたいだ。 俺は足を止めた。 これ以上は、巻き添えを食う。
ガルパスが、大男に顎で指示をするのが見えた。男の手には、爆弾のスイッチが握られている。
俺はその場に留まり、コルロルの背中を見送った。悪いがコルロル……俺は金が必要なんだ。怪物は知らないだろう? この世は金なんだ。金があれば、命だって買える。
それに、ライアンとかいう架空のヒーローも、怪物のことは助けないんじゃないかな。
「……なんて」、口端から言葉がこぼれ落ちる。足が地面を蹴る。ごく短い距離を、全速力で駆ける。
今日会ったばかりの怪物と、一生遊んで暮らせるだけの大金。俺は頭の隅で考えていた。どっちが大事か。即答できる。金だ。理由は単純明快。金は生きていく上で絶対に必要だが、怪物の仲間は必要じゃない。
失ったところで、俺の人生は良くも悪くも転じない。あってもなくても変わらないものだ。でも金は俺の命を保証する。そういう理屈を、俺は神よりも信じている。 信じてるんだ。
「コルロル……!」、全力でコルロルを崖の向こうへ押し出す。「飛べ! コルロル、飛べ!」、俺は無我夢中で叫んでいた。
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