毎日
月物語
第1話 5月2日
暑かった・・・今日は暑かった。
つい昨日までお風呂上りには足が冷えるので暖房をつけていたのに。
「・・・夏かっての」
ここ最近昼夜逆転生活が続いていたのでお昼頃起きるのだが
今日は暑さで起きるという不本意な起床だったので困る。
菜の花柄の掛布団を取り去り、マットレスの冷たい部分をさがしてゴロゴロする。
ここで時間を無駄にするわけにはいかない。起きなければ。
「水飲もう」
着圧ストッキングがいつもより足にまとわりつく気がする。
5月の初めにこんなに暑くなるなんて思わなかった。
時間は11時23分、洗濯物をしようか・・・
「待ち合わせは13時だから・・・うーんちょっと厳しいかな」
そう、今日は人に会う。
それも会ったことのない人に。
いわゆる知人の知人だった人と少し仲良くなり、文章と音声でしか話したことがなかったためこの際会おうということだ。
「とりあえず顔を洗って、保湿してメイクかな」
お風呂場の黄色いタイルを冷たいなと感じながら顔を洗う。
乾燥肌だからいつも水洗い。
お風呂場から出ればキッチンのシンクに目が行って、昨日の洗っていない食器を見てしまい少しだけモヤっとする。
「いいのいいの、一番大事なのは待ち合わせなんだから」
女一人暮らし。文句を言う人もいなければ困る人もいない。
寝室に戻り、メイクの準備をする。
薄い水色のふき取り化粧水、ハト麦化粧水、保湿クリームの順に塗っていけば
少しずつ顔色の悪さがなくなっていき、見れる顔になる。
メイクをしながら考え事をする。
「どんな人かな」
文章と声でしか会話をしたことがない。すべてイメージでしかない人と会うのだ。
自分が美化されていたらどうしよう。向こうの顔を見た途端に心のどこかで「あ、思ってたのと違う」ってなったらどうしよう。
「自分も怖いくせに・・・」
この人自分に好意があるんだな。というのが女の子にはなんとなくわかる。
彼への好意がわたしの中で確実にあるのならそれは喜ばしいことだ。
しかし、当のわたしはいまそれが分からない。
分からないまま会うのだから怖いのだ。
「会ってから考えていいよって言われたもんな」
ふと窓の外に目をやる。
暖かいのでカーテンを開けて外の空気が入るようにしてあった。
うちの前は桜並木になっていてよく人が散歩をする。
老夫婦、ランニングをする人、楽しそうに話をする高校生。
みんな腕まくりか半袖だ。この気温ならそりゃそうだろうなぁ。
そのとき携帯が鳴った。
予定より早く着きそう。ゆっくりでいいよ。
できればはやく会いたいなってことじゃん。
ネイルは諦めて服着よう。初めて会うのにおしゃれし過ぎるのは良くないよね。
でもだからって気を抜きすぎるのも印象が悪いし。
今日はお店に入る予定などはなく、気軽に話しながら散歩をしようという流れ。
クリーム色の長袖に黒のスカート、ビンテージの靴にしよう。
自分らしさは捨てられない。
さながら古着屋さんのように並べられた服と靴に目をやりお気に入りを選ぶ。
さてどうなることやら。
今から家を出ます。涼しいところにいてください。
携帯をマナーモードにしポケットにしまって、
楽しみ半分、怖さ半分で暑い空気を吸いに行く。
「行ってきます」
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