11.転性聖女の娘の登録試験2

「よし、二人とも位置に着いたな」


 支部長が確認すると、両者が向かい合う。


「言い忘れていたけどな、もちろんグスタフを倒す必要はないぞ。

 戦闘内容を見て合否を判断するからな」


 ハッハッハッと笑いながら支部長が補足する。

 どうやら、相手を倒さなくて良いらしい。

 まぁ、当たり前か。流石にハードルが高すぎるよね。

 

「よし、二人とも、構えな」


 支部長の指示に従い、二人は武器を構える。

 グスタフさんは長剣を中段に力強く構え、

正に王道を行くスタイルだ。

 対してアキは棒立ちで両手に一本ずつ水晶ナイフを持っている。

 私もだけど、武術なんてかじった事も無いですからね。

 機会があれば誰かに教わってみても良いかな。


 グスタフとアキの二人は凡そ30メートル程度離れた位置で向かい合っている。

 この距離であれば、エアシュートの魔法でナイフは十分に届くだろう。


「ふん、好きに攻めてきな。相手してやるよ」

「かーさま直伝の技を見せる」


 両者やる気は十分そうだ。後は支部長の開始の合図を待つばかりだ。


「ねぇ、えーとハルちゃんだっけ?

 あの子にどんな戦い方を教えてあるんだい?」


 優男、アッシュさんだったかな、が興味ありそうに聞いてきた。

 別に教えても困る事は無さそうだし、教えてあげても良いか。


「うちの子、そこそこ魔法が使えるんで、

 ナイフを魔法で投擲して遠距離戦を仕掛ける感じですね。

 あんな小さな子が肉弾戦、ましてやグスタフさんみたいな人と

 なんて無理ですから」


 そんな会話をしていると、どうやら試合開始のようだ。


「そんじゃ、仕合開始だ!」


 支部長の合図が周囲に響き渡る。

 グスタフさんは先程の発言通り、自ら攻める気は無く待ちの様だ。

 アキはグスタフさんが動く気が無い事を察すると動きをかけた。


「アクアジェット」


 アキは少し前傾姿勢になると、背中の辺りから後方に大量の水を射出しながら、

それを推進力として高速で前方に飛んでいく。

 なんだこれは。


「へぇ、こんなに水魔法を自由に扱えるとは凄いな。

 ハルちゃん、さっきの会話はグスタフにわざと聞かせて、

 油断でも誘おうって魂胆だったのかな?」

「ははは」


 先程の私の発言は情報戦か何かだと思われてしまった様だ。

 アキがこんな魔法を使えるだなんてこっちが初耳ですよ。

 ベルはすごいね、すごいねと繰り返しながら、

私の方をキラキラした目で見てくるし、周囲からの視線が妙に痛い。

 取りあえず、アキ、スカートの中身が見えそうなので気をつけてね!!


「アイスニードル」


 アキは飛行しながら、自身の周りに数本の氷柱を生成し

それらをグスタフさんに向かって時間差で射出していく。


「ふん、こんなん当たるかよ」


 グスタフさんはその場から動くことなく、

高速で向かってくる氷柱を一本、二本と次々と剣でいなし、

切り伏せて撃墜していく。

 こんな芸当をいとも簡単に行うとは、

冒険者ギルドの有望株と言われるのも頷ける。


 氷柱の大半が打ち落とされた瞬間に変化が訪れた。

 アキが、太い氷柱の後ろを全く同じ軌跡で

細い氷柱を飛ばしていたのだ。死角を利用した一撃だ。


「いやらしい攻撃れすねー。いやらしい子れすねー」


 ルシルさんが何か言ってる。

 後半は違う意味に聞こえますけど!


「しゃらくせぇ!」


 氷柱を打ち落とした直後に目前に現れた氷柱、

それであってもグスタフさんは即座に反応し、

返しの刃を振り上げ見事に弾いた。実に見事だ。

 だが、グスタフさんを多少は動揺させ、

無理な体勢で剣を振り上げてしまったこの瞬間に、

更に水流を強め加速したアキがグスタフさんに肉薄した。


「ん」


 不意を突いたアキがナイフで一閃する。

 

「くそが!」


 こんな状況であっても、グスタフさんは咄嗟に片手を剣から離し、

籠手を使ってその攻撃を弾く。

 だが、アキも負けていない。

 弾かれた反動と水流を上手く使い直角に進路を曲げ、

その場から離脱していく。ついでに水で目潰しをしながら。


 アキは奇天烈な軌道を描きながら飛行し、

肉薄と離脱を繰り返しながら、一合、二合と刃を重ねていく。

 対して、グスタフさんはその全てを上半身の動きのみでいなしていく。

 何これ、思っていた以上に戦いのレベルが高くて

私にはついていけそうに無い。

 登録試験ってこんなレベルは要求されませんよね、ね?

 滅茶苦茶にされる未来の自分を想像し、頭を抱えてしまう。


「グスタフ、痺れを切らしたな……」


 アッシュさんの一言で妄想の世界から帰ってくると、

グスタフさんの四肢に特定のマナが集中しているのが見て取れる。

 さっきまで無かった、あれは何だ。

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