第74話 宿を求めて放浪す

 またしてもホテルを百合香ちゃんに譲った俺は、深夜一時だというのに歩道を徘徊している。

 

 仕方ないことだ。百合香ちゃんを放浪させることは(条例に則しても)できない。


(またネカフェか。まあいいけどさ)


 正直、金がヤバい。ネカフェは安いと言っても、何時間も滞在するとなるとそれなりに金銭がかさむ。それに、ネカフェは壁で隔てられただけで、天井はないから、周囲に気を遣わなければならない。シャワー室が完備された施設もあるが、湯船は存在しない。山に登って疲労した体を癒すことは、シャワーだけじゃ難しいだろう。

 結論。ネカフェは旅行者にとって最適の寝床とはいえない。


「うう……」


 でも、野宿なんて嫌だし……。泥棒とか暴漢とか怖いし……。


(意気地のない男はダメ、か。交差火こうさかれいにコンマ一秒で嫌われるな俺……)


 個人的には、そんな交差火こうさかれいが嫌いじゃない。


「ってそんなことじゃねえだろ。さっさとネカフェ行かなきゃ」


 マップにネカフェの位置が表示されている。まだ結構歩かなきゃいけないらしい。駅からだと近距離にあるこのネカフェだが、百合香ちゃんとホテルに行っていたために遠くなってしまったのだ。それこそ仕方ないことだけど。


 脚に筋肉痛が生じ始めた。そんな深夜、俺は一人ネカフェを目指す。


(…………なんか俺、カッコイイんじゃね?)


 孤高の哲学者みたいだ。誰もいない深夜に歩くなんて。


(フフフフフ……俺、今めっちゃ哲学者だぜ)


 今この道を進んでいるが、果たして進むとは何なのか。そもそも道とは何なのか。我々はどこから来て、どこへ向かい、どこにたどり着くのか。そもそも人間とは何なのか。生命とは。宇宙とは。時空とは。次元とは。単位と…………



「…………」



 え?



「…………⁉」




 何かいる。




「……」




 寝転がってる。


「嘘だろ……」


 人間じゃねえか。しかも、女子。彼女が生きているのか確認せねば。


 恐る恐る近づいてみる。




「うっ、嘘だろ!」




 歩道にうつ伏せに横たわって、顔をぐるりとこっちに向けたその彼女は、


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