第45話 美少女JKから逃げる
百合香ちゃんについて話すことを拒否した俺は、
今は
「ああぁぁ、めっちゃキュンキュンするぅ」
クラブで流れてそうな、リズミカルな曲調だ。原曲は普通の恋愛ソングだが、ピッチを上げてダンスミュージック風にしてるらしい。
「なんだか、ねちっこいな」
「峡介さんもキュンキュンするよね?」
「しないな。ねちっこいって言っただろう」
何曲か聞かされたが、どれも男と女のねちゃねちゃした恋模様を歌っている。「どうして叶わないんだろうこの恋は」とか、「気づいて私のこの気持ち」とか、臭い歌詞の曲が異様に多い。
「峡介さんとキュンキュンしたいなぁ、わたし」
「一人でしてくれ。俺はお断りだ」
「わたしの初めて、欲しくないの?」
恋したい、と願望を垂れ流すほど恋に飢えている女。
「処女なのか? お前」
ハッとした沙夜。スカイブルーの瞳の奥にある瞳孔が、キュッとなる。
「百人くらい! ほんとは百人くらいとヤッた!」
「そんな頻度でヤる女とは付き合えない。性病持ってそうだし」
「嘘……。察してよ、本当は一人……」
「ゼロだろ。さっきそう言ったじゃないか」
ぽっと顔を赤らめた
「峡介さんが、一人目だもん…………」
ますます顔が赤くなった。膝を覆うスカートを、もにょもにょいじっている。
「そういうことは一人でやっとけ。なんなら田舎娘……
あいつに名前があったことを、忘却していた。
「望は乱暴で全然気持ちよくなかったの。指の動きが激しすぎて、痛かった」
眉をひそめてまくし立てる。
「……やったのか?」
「い、いいじゃん望なんだし。女同士だからハズくなかったし。大体、指でやってもらっただけだし…………」
今は顔を赤らめている。女同士でやったことを男に告白するのが恥ずかしいのだろう。
とはいえあの田舎娘、ラーメン屋のイカつい店長をおとなしくさせるほど、男勝りな部分がある。別に男とカテゴライズしてもいいのではないだろうか。
「峡介さんは何人か経験してるんでしょ……? 加減も知り尽くしてるんだよね……? や、優しくしてね。でもラストスパートは激しく…………」
言い終える前に、顔を手で覆ってしまった。
「可愛い乙女に何てこと言わせるの、峡介さんの変態っ」
「お前だろ。 あと、エロいことばっか言うなら帰れ。迷惑だから」
「わたしエロくないよ、恋がしたいだけ」
きりっとした目。輝く瞳。じっと見つめられて、思わずドキッとする。
「そ、それは俺じゃなきゃいけないのかよ。俺に似たような男なら誰でもいいんじゃないのか」
「こんなに退廃的で気だるげな人、峡介さんしかいない。わたし、そういう人をずっと求めてたの。運命なの」
いちいち失礼な言い回しだな。思いやりがない。
「じゃあもし俺のクローンと出会ってたらどうだ? クローンに恋するんじゃないのか?」
「そ、それは……」
迷われた。
「二人の峡介さんに、お料理されちゃうってことだよね……」
いつの間にか都合よく両方とも選択し、妄想の材料にされていた。クローンに対して嫌悪感を抱いている自分が、バカらしくなってくる。
「あ、ダメ。妄想してたら我慢できなくなっちゃった。峡介さん布団貸してね」
「あ、こら!」
いきなり寝室に走ったかと思えば、布団をガバッとはがし、俺のベッドにもぐりこんだ。
「うわっ、峡介さんの匂いが染みついてる。どんどん興奮するじゃん」
もぞもぞと動く、掛け布団。中から紺色のセーラー服がぼとっと落ちる。
「おい何して…………」
「わたし今から一人でヤるから。そこで見守ってて」
「なっ」
「お願いっ。恋人に見られながらヤるの、すごく興奮すると思うからっ」
ふすまをバァン、と閉じる。
「ちょ、峡介さん⁉ なんで閉めたの⁉」
家が占領された。外に出るしかないようだ。
俺は学校に行く準備をする。もうAM9:13だが、二限には間に合うだろう。
「ねえ、聞いてるの? 離れててもそこにいるよね? わたしもう始めちゃったよ? ……んぁッ。ほっ……ほらね? 生々しいわたしの声、聞いてるよね?」
寝室で騒ぐ美少女JKの声を後ろに、俺は玄関のドアを開ける。
ドアを閉める。
沙夜が帰ることを祈って、敢えてカギはかけなかった。
「あ! 峡介さん出て行った⁉」
俺の家の中で、美少女JKが狼狽している。
逃げるが勝ち。危険から逃げるのは、太古の昔より備わった防衛本能だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます