第42話 過去を形作るゴミ

 思えば、幼少のころから人が怖かった。


 怒鳴り、暴力をふるう親。泣いても無視し、迷惑そうに顔を歪める保育士。

 仲良く一緒に下校していたT君とは、小四の冬から罵倒されながら一緒に帰った。

 進級して新しく友達になったR君は、弱い者いじめが好きな人だった。俺ともう一人、Y君と一緒に、調子に乗って弱い者いじめに加担した。季節が冬になったころ、いつの間にかR君とY君は俺を弱い者に属させた。

 中一の時、ピアノが上手だという理由で全校生徒にもてはやされた。そんな自分に、自分の頭はついていけず、卒業の時には、すべての友達が消え失せていた。

 高校の時、初めて実力テストで一位を取った。たった一つの得意科目だけだったけど、嬉しかった。人を蹴落とせたことが、嬉しかった。

 浪人の時、すべてが地獄だった。拘束時間15時間、休日なし、体罰あり、大学入試に落ちたら就職というプレッシャーあり、親は冷たく、金を出してくれた。

 大学時代。サークルで楽しくやれていたのは、俺が嘘偽りの仮面で接していたから。そんな仮面で人と接するのは窮屈で、孤立した。すぐに辞めて、退屈な講義に出るだけの日々が流れた。そこから暗黒のような日々が流れ、無駄に時が過ぎた。



 人を怖がっていた期間が多すぎた。ゼロではない、人を信頼した時間。少なすぎて、意味を成さない。


 人の輪から遠くはじき出される期間が多すぎた。何度も訪れた、人と接するチャンス。そもそも「人」と認識していた回数が、ほとんどない。



 なるほど、ゴミらしい。人がゴミのようだ、というセリフがあるが、あれは間違いだ。俺がゴミだ。いないほうが都合のいい、ゴミだ。


 ゴミだからこそ、そういう生き方をしてきたのかもしれない。ゴミは捨てられるものであり、拾われたとしても別のものに変化させられる。ペットボトルが繊維状にされて、衣服の生地になるように。

 俺は妥当な生き方をしてきたのかもしれない。



 百合香ちゃんに、勝手に希望を見出していた。

 俺が拾った形に見えたのは、実は俺がゴミから脱出しようとした結果だった。


 

 それも虚無だったようだ。くだらない夢だった。


 

 

 家にいよう。

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