第37話 恋愛ソングに恋する乙女

 わたしの名前は菫原すみれはら沙夜さや。右原女子に通う高校二年生。

 運動は苦手だけど、勉強はまあまあできるほう。友達は一人しかいないけど、一人を大事にするタイプだから全然OK。友達の名前は、物部ものべのぞみ。背がちっちゃくて、かわいい女の子。ちなみに顔は、断然わたしのほうが上ね。


 こんなに顔がいいわたしなのに、学校では全然友達できなくて、すごく不安だったの。なんか皆わたしのこと避けてるっていうか、陰でコソコソ言われてるっていうか。でも、わたしより顔がブスな子ばっかりだから、傷つかないの。入学当初は、ほんっとブスばっかで驚いてました。特に望。でもなぜか、望はわたしと友達になってくれたの。ほんと、意味不明だよ。


 わたしの趣味は恋愛ソングを聴くこと。普通の恋愛ソングもいいけど、わたしが好きなのはYouTunaにアップされてるNightcomputerってジャンルの歌。音は元の曲のピッチを上げただけだけど、動画にわたし顔負けの美少女イラストが使われてる。それをわたしだと思って、「今わたし、男の人に恋してるんだ……」って妄想するのがすごくキュンキュンしちゃうの。


 でもわたし、女子高だから。男がいなくて。


 ラッキーにも、望が男臭いから、望に付きまとってれば男が見つけやすいの。

 最近はラーメン屋のおじさん。いいおじさんを探してるんだけど、なんか違うっていうか……

 

 もっとこう、廃れた? っていうか、わたしがいないとダメ、っていうか、とにかくわたしより低レベルじゃないと嫌。でも皆スーツ着てビシっとして見えるからなぁ。もっと低レベルな男いないの? わたしに恋して、わたしなしじゃ生きていけなくて、一生わたしをフらない男の人。


「ぎゅふふ、沙夜ちゃん髪の毛サラサラだねぇ」


「うん、髪には自信あるよ。もっと触っていいよ?」


「いひぇえ! そんなこと言われちゃったらオジサン、永遠に触っちゃうよぉ?」


「それはムリかな~。アハハ~」


 うわ、この人キモ。触り方も全然気持ちよくない。低レベル=低じゃないんだよね~。この人は没。


「お嬢ちゃん、この味噌ラーメンをお食べ。食べてくれたら3万払ってあげるよ(キリッ)」


「さ、3万~? 嬉しいですぅ~。ちゅるるっ」


「うほっ! …………お嬢ちゃん、持ってきな」


「ありがとうオジサン!」


 こいつ絶対家族いるって。絶対フられる、絶対わたしなしでも生きていける。

 没。


「沙夜ちゃん」「沙夜さん」「沙夜様」「沙夜氏」


「はぁい、オジサンたち順番っこ~。もー」


 ダメ。全員ダメだわ。0円。


 もっとこう、恋愛ソングの題材になってくれそうな男いないの? わたし顔いいから男は集まるけど、肝心のわたし好みの男って臆病気質だろうからなぁ。脂ぎった男の壁に阻まれて、運命のカレがわたしに告白できないんじゃ?



「沙夜、あんたもさっさと注文したら? オッサン困ってんで」


「いやいや沙夜ちゃんはいいんだよ、なんたってこの店の看板だから」


 え、看板? わたしって看板? 理想の男が寄り付ける看板かな……


「こらオッサン、なにヒイキしてんねん。客から一銭も取らん商売人がどこにおんねん、アホ」


「すす、すまん望ちゃん。さ、沙夜ちゃん、何か食べたいのある?」


「ヘルシー塩ラーメンで、お願いしまぁす♡」


 この店員さん、望と結婚したら望の尻に敷かれそう。わたしじゃなくて、望なんだ。へ~。

 

 没。


「あ、俺戻んなきゃ。仕事始まるわ」「俺も。上司に叱られる」「沙夜ちゃんの破壊力パネー」「明日も来るからね、沙夜ちゃん」


「はぁい」


 全員帰っちゃった。残ったのは店員だけか。


 今日も収穫なし、わたしの何がいけないの? わたしはただ、キュンキュンする恋がしたいだけなのに。あー、イイ男いないかなー。



 んんーッ、なんかイライラするんですけどーッ


「店員さん、半額でお願いします。ダメ?」


 きゃるーんって笑っとけば大丈夫でしょ。だってわたし、可愛いし。


「ダメに決まってるやろ。色気でたぶらかして半値とか、どこのNo.1風俗嬢やねん」


「ええー、望はブスだからって、すぐ僻むんだからー」


「ぶっ殺すぞ。色ボケ女」


「いたっ」


 望に頭をシバかれた。容赦ない、すごく痛い。でも胸は痛まない。締め付けられるような恋の胸騒ぎ、味わってみたいなぁ。


「そんなに強くしなくてもいいじゃん、冗談半分なんだからーッ」


「冗談で男に接触許可出せるかいな。はよ金出さんかい」


「ちぇー」


 今日も望のせいで半額にならなかったよー。望のケチ。ブス。


「あ、おじさん。やっと来たんかいな」


「ちょっと百合香ちゃんに捕まってて」


「またちゃん付けかいな。冷房付けてないのに寒気するわ」


「そこまでキモがらなくてもいいだろ田舎娘。ったく、百合香ちゃんとは対照的だなお前」



 トゥクン。



 え? ………… なに、この気持ち…………


 この人……………………


「あっ」


 あ、声出ちゃった…………


「あ。…………どうも」


 ここ、声かけられたんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!


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