第301話 可愛いモンスター
「お、次の試合ではあの可愛いワンちゃんが出るようですよ!」
「か、可愛い、かー」
彼女が言っているのは、彼の従魔であるアイシクルパピィのことだろう。確かに見た目は愛くるしいほどに可愛いだろう。それは私も認めよう。
しかし、しかしだ。その実はかなりエゲツない魔法兵器とも呼べる程の恐ろしいモンスターなのだぞ?
プレイヤーからしては考えられない、大規模な魔法を平気で乱発してくる。これがどれだけ厄介なことは言うまでもないだろう。だが、厄介で恐ろしいのはこの部分ではない、むしろこれだけならばまだ良かったのだ。
そのより恐ろしい理由というのは、このモンスターがまだパピィということにある。
パピィ、つまりは仔犬、つまりはまだ幼体であるということだ。人間もそうだが、幼い時の成長速度は馬鹿にできないものがある。周囲からあらゆることを吸収し、自らの糧にしていく。
幼体の時点でこれだけの戦闘力を持っていることもそうだが、その幼体が置かれている環境というのも、この仔犬の恐ろしさをブーストしているのだ。
史上最強のプレイヤーである彼が近くにいるだけでも十分なのに、それに加えて優秀な配下が既に何体もいるのだ。しかも最近新たに恐ろしいのが追加されたばかりだ。
そして、何よりの懸念事項が、まさしく彼の従魔であるということだろう。全くどれほど自陣を強化すれば気が済むのか。今となっては多少は気疲れが減ったものの、それでも心によくない。まるでいつ爆発するともしれない爆弾の側に爆薬を足していっているようなものなのだ。
「はぁ……」
「ど、ど、どうしたんですか? 今からせっかくワンちゃんの活躍が見られるんですからもっと楽しそうにしてくださいよ! 彼が仲間になるってことはこのワンちゃんも味方になるってことですからね!? はぁー、私も一度でいいからもふもふしたいー」
私と全く別種のため息をつくと、彼女はモニターに張り付いてしまった。
全く、人の考えも知らずに。まあ、彼女はわかっていてあえて知らぬふりをしている、という側面があるのだろうが、それでもそれでも少しは共感してくれてもいいのではないのだろうか? 上司の負担を少しでも肩代わりしてあげようとは思わないのだろうか?
「……」
いや、部下にそんなことを期待しても無駄だな。むしろ上司こそが率先して部下の心労を解消してやらねばならぬのだろう。その為に、私の財布が犠牲になっているのだが。
まあ、彼女の場合は心労なんかよりも食欲や好奇心といったものの方が私の財布を攻撃しているのは間違いない。
なぜだろう、いつもこの話題に帰結している気がする……
そんなことを思っていると唐突に戦いの幕が切って落とされた。可愛い可愛いワンコちゃんがお得意の氷魔法でどちらの陣営構わず蹂躙し始めたのだ。
このワンちゃんは広範囲魔法が得意だから、大勢のプレイヤーをバッタバッタ薙ぎ倒していく。いや、カッキンコッチンに凍らせていく、という方が正しいな。
そんな訳であっという間に試合が終わったということは言うまでもないだろう。
はあ、だからいっただろう、このモンスターは恐ろしいと。全然可愛くない。
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気づいたら300話まで到達していましたね。本当は前話で述べるべきでしたが、これも皆さんの応援あってこそです、本当にいつもありがとうございます!
そして、最近サボりまくってごめんなさい。ようやく復活できそうです。(でも期待はしないでね!笑
これからも自分のペースで頑張るので暖かく見守っていただけると嬉しいです!!
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