第221話 完全勝利?


「残りの二つの称号なんですが、一つが毒殺婆の愛弟子、もう一つが気高き料理人、というものなんです」


 ふむふむ、確かに毒殺婆に関しては少し怪しいが、ここが食死処であるというのは前から知っていたことだろう? 特別驚くこともなければ怪しくもないのではないだろうか?


「もしかしてそんなに怪しくないとか思ってます? 確かに毒殺婆の方は特に怪しくないかもしれません。効果も料理に毒を盛ることでその効果が上がるという単純なものです。しかし、こんな称号を平然として取得する彼にはどうしても違和感が拭えません。このことを知っていたのか、と」


 うーん、まあ彼女の意見も最もだな。そう思いたくなる気持ちも分かる。


 ただ、それに関して言うと、彼の今までの行動全てがそうなんだよな。その議論も幾度どなく行なってきて結局スパイでも入れない限り、内部漏洩者がいない限り無理だという結論が出てるんだよな。


 もちろん、分かっていて言っているのであろうし、私自身分かっていても言いたくなることもあるから何も言わないんだが、これに関してはそこまで怪しくはないんじゃないか?


 ん、毒殺婆の方は、ってもう一つの称号の方が怪しいのか? そんなわけ、、、


「で、もう一つの称号ですね。まあ、はっきり言ってもこちらの方が問題です」


 あったか……気高き料理人なんて素晴らしい称号じゃないか。これのどこが怪しいというのだろうか。


「この称号の獲得条件、そして最後の一文がとても怪しいのです。まず、条件に関してですが、ステータスを一切振らない状態で上級料理人に至る、というものです。彼は最初は普通にいつも通りの状態で行なっていましたが、途中でスキルと称号を封印することでこの条件を満たしました。これは今思うと流石に怪しくないですかね?」


 うむ、確かに怪しいと捉えることができるな。だが、


「逆に途中からそれを行なったことで潔白さが証明されるのではないか? 彼だって知っていたら最初から封印してから行うだろうし、あんな二度手間を自ら行おうとする人には思えないぞ?」


「そ、それは途中で知ったからじゃないんですか? それか忘れていたとか……」


「まあ、確かにその線もなくはないのだろうが、その線を追うのであればそれと同等以上に何も知らないという線も強くなってしまうからな、どちらにせよ、という感じだ」


「むぅ、ですが、この最後の一文を聞いたら流石の先輩でも驚きますよ。この気高き料理人の称号は料理完成時に効果補正をしてくれるんですが、その後に、料理人の新たな可能性を切り開く、と書かれてあるのです!」


 新たな可能性? それは確かに怪しいな。どういう意味なのだろうか、全く理解ができない。


「流石に変だなと思いましたよね? そうです、この一文があるからこそ、彼がこの称号を狙って獲得したんじゃないか、と思ったわけです!」


「なるほど、では開発部に聞いてこの一文の意味を聞いてみたらどうだ? そしたら何かわかるかもしれないだろう? 流石に全く分からないってこともないだろうし、もし分からないって答えたら、彼がそれを知っている道理がなくなってしまうからな」


「そ、そうですね。聞いてきます……」


 ん、今日の彼女はやけに静かだったな。何かあったのだろうか?


 それにしても彼は本当によくこれだけの称号を集められるものだ。称号やスキルに対する天性の嗅覚でも持っているのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る