第217話 死と疑


 彼は悪魔の脇差を手に入れた。脇差というのは、刀身が三十から六十未満の刀のことを指すらしく。彼が今まで使ってきた二本の長剣に比べると、些か、いやかなり頼りなく思える。


 しかし、攻撃力もさるとこながら、その真価はこれを装備することで使用できるスキルにあった。そう、悪魔との契約、だ。


 字面からも分かる通り悪魔の力を代償ありきで一時的に得るというものだ。これだけでも強いが彼の場合は少し話が変わってくる。おそらくだが、何らかの影響によって代償が無くなるとまでは行かなくとも、軽くなったりするのではないかと睨んでいる。


 つまり、悪魔との契約の価値が爆上がりするというわけだ。そうなると、彼が悪魔の力を振りかざすことになる。まあ、例の如く今更嘆いても何も変わらないから何も憂うことはない。


 それと、因みになんだが、悪魔との契約というスキル名は全スキルの中でも上位の文字数を誇っている、かなり珍しいスキルだ。


 四字熟語スキルが強いとされている中で、四文字は愚か、五文字を飛ばして六文字なのだからその脅威が察して取れるだろう。


 まあ、どういう結果になろうとも彼が今後どのようにこの武器を使っていくのか、注目していきたい。頼むから、目立つことだけはしないでくれ……


「あ、彼が食死処にきましたよ。また修行ですか、早く終わりませんかね? 悪魔の契約とか使って暴れてもらいたいんですが」


 およそ女性の口から出ないようなことを平気でポンポン口にしている彼女だが、大丈夫だろうか?


 まあ、彼女の場合は他人の目線、他人の考えを心の底からどうでも良いと思える人だから、気にしてないのだろう。彼女の場合はそれを通り越して自分が絶対である面が強いけど、最近は収まっている気がする。


 彼女も時間の経過と共に歳を重ね、それ相応に成熟しているのだろう。


 ……成熟した後輩なんて見るに耐えないな。これ以上想像するのはよしておこう。


「あ、え? 彼がお店を飛び出して、早速悪魔との契約を発動しましたよ? もしかして彼も暴れ不足だったんですかね? これで精一杯暴れますね!」


 まさか、これほど早く発動するとは。彼はもう少し修行に専念すると思っていたのだが、彼も流石に退屈してきたのだろう。


「ん、はい? あれ、見間違いかな、彼が自分自身の体に攻撃しているように見えるんですが……」


 いや、それは見間違いでも幻覚でもない。彼が間違いなく自分の体に攻撃している。でもなぜ? 憑依している悪魔の体に攻撃したところで意味はない。強化された攻撃力によって、自分の死が多少早く訪れるくらだ。


「あ、死んだ」


 ますますわからない。彼の意図するところが一切の理解不能だ。代償もしっかり全額負担しているみたいだし、全然軽くなっていない。これはどうやら私の予想は外れたみたいですね。


 そして、死に戻った彼は真っ先に食死処に赴いて修行を始めた。


「え、今の一連の動きなんですか? なんで修行するのに自殺がいるんですか?」


 もし、悪魔を呼び出して自殺をすることに意味があるのならば、なんだろうか? でも、彼にとっては意味があることだったからそうしたのだろう?


 一体なぜ??

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