第112話 ツケ


 未だかつて、プレイヤーが現地のギルドにツケを行なったことがあるだろうか? 恐らくないだろう。一体彼はどこまで自由奔放にすれば気が済むのだろうな。


 まあ、仕方がない。それよりもこれからのことの方が重要だ。


 にしても毎回毎回これからの方が重要、って言ってないか私。でも、実際に起きてしまったあ出来事は変えられないからな。変えられることはこれから起きることだけなのだ。


 だが、それにしても私、いや我々が何かできているのだろうか? 彼に対する対抗策を何かと打っている気はするのだが、効果は芳しくないように思える。


 そもそもこの自由を謳っている世界で人を縛ることができない以上、どうしようもない、とまでは言わないが打てる手が相当限られてくるのだ。……まあ、これ以上言い訳を並べても仕方あるまい。とにかく、今は彼の現状を把握することが先だ。


「彼は店を出た後、結局どうなったんだい?」


「はい、それなんですが、その後仙人が利用している小屋に向かいました。そこで彼は仙人から修行僧、及び仙人についての基礎知識を軽く知ることになります」


「そうかー確かに今まで知る機会というのはなかったはずだからな」


 彼が知っていることといえば、修行僧のなり方と、その効果についてだろう。隠されている仕様や効果については知るよしもないはずだ。


 しかし、それを理解したとなるとまた話が変わってくる。今まで知らなかったということはそれあの概念に対してなんとなく感覚的に向き合ってきた事になる。それが、明確な理由を得たことで自ら能動的に狙ってできるようになるのである。


 例えばそう、修行僧はスキルや称号がゲットしやすい、というのもその一つであろうな。それを知っているのと知らないのでは行動パターンが大きく変わるかもしれないだろう? スキルを取りに行く行動というものが増えるかもしれない。


「その後はどうなったんだい? 彼はスキルの取得に向かったかい?」


「いえ、仙人がその説明の後に、塔の攻略を彼に命じたのです。そして彼はその命令通りに一直線に塔に向かって飛び立ちました」


「塔、というのはもちろん帰らずの塔、のことだよな?」


「はい、もちろんその通りです。ってかそれ以外あり得ないでしょ」


 いや、最後の一言いらなさすぎるだろ。なぜもちろんその通りです、で終われなかったのか。まあ、良い私は器が広いからな。


「彼はもう着いたのかい?」


「はい、もうすでに到着しております。そしてもう既に……」


「もう既に……?」


 さ、流石にもう既にクリアしているなんてことはないだろう。あの塔はかなりのボリュームであるからな。でも彼のことならばもう既に半分くらいは踏破していてもおかしくはない、、のか?


「彼はもう既に、第一階層にて死に戻りを始めているようです」


「ん……? 死に戻り? え、もう?」


 そ、そっちか。彼はどうやらスキルをさらに獲得する為に行動を開始したようだった。この塔攻略後に彼のステータス欄は一体どうなっているのか、考えたくもないな。

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