第100話 後一歩
あ、あんなに、あんなに何かあると思って総動員で探したのに、ただバカンスしにきただけだと……!?
さ、流石にそんなはずはあるまい、何か、何かあるはずだ。
「「…………」」
「せ、先輩、彼、ただ泳いでますね」
「あ、あぁそうだな」
彼は泳いでいた、とても気持ちよさそうに。
現実の海は世界的にプラスチックゴミの削減が推し進められている今でもかなりゴミが多いからな。まあ、以前の何のリテラシーも無かった頃に比べるとだいぶマシにはなっているらしいが、それでも気持ちよく泳げるビーチは日本には少ないだろう。
そう言った観点から見ると彼は非常にこのVRという仮想現実世界を楽しんでいるように思える。登山をしていたり、今みたいにビーチで海水浴だってしている。瞑想だってそうかもしれない。自然の中で瞑想することなんて日常のどのタイミングにあるだろうか。
この世界だからこそ味わえる経験というものを彼は非常に大事にしているのだろう。あくまでゲーム、されどゲーム。この感覚を常に持っているからこそ全力で楽しめるんだろうな。
もしかしたら、彼が、彼こそが一番このゲームを謳歌しているのかもしれない。何者にも縛られず囚われずただ生きたいように生きる。これがこのゲームのコンセプトでもあるのだが、その実現がいかに難しいことか。
人はすぐ他人の夢や目標に生きてしまう。本当に欲しいもの、本当にしたいこと、というのは案外自分でもようわかっていない人が多いのだ。まあ、そういう風にいきたいのだ、と言われればそれまでだが、自由、というのは案外難しいのだ。
その点彼は本当に自由に思える。行動から思考、発想まで、羨ましいくらいに囚われない、そんな風に見えるのだ。
もう、私も歳をとって色んなものが凝り固まってしまっているのだろうか。
私が今していることは自信を持ってやりたかったことだと言えるのか、常に自問していかなければならないな。人の振り見て我が振りなおせ、これは別に悪い事だけに使うという決まりもないだろう。学ぶ姿勢を失わずにこれからも精進していきたいな。
しかし、何かどこかで引っかかっている気がする。
やりたいことをする、自由に生きる、ゲームの中だからこそできることの意味……
「あ、先輩! 彼が死に始めましたよ、それも物凄いスピードでです!」
ん? 死に始めた?
「彼がドンドン死んで行きますよ! まるでタイムでも誰かと競っているような速さです!」
どんどん死ぬ? なんだこの感じ、答えに届きそうで届かない。
「あ、彼が水圧無効を獲得して、そのまま水中適応というスキルをゲットしました! これ、地味に強いスキルですよね?」
やりたいことが死ぬことなのか? 自由に生きるために死ぬのか? ゲームの中だけでしかできないから死ぬのか?
後一歩、もう一歩で届きそうな気がするんだが……
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運営編が100話に到達致しました!!
特に狙っていなかったのですが、先輩が主人公の謎に迫っていく回になりました!
いつかその謎を解く事ができるのでしょうか?
これからもこの拙作を本編共々どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
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