第62話 悪魔


 悪魔、それはこのゲームの中で唯一の敵といっても過言ではない存在だ。


 唯一の敵、と聞いて不思議に思う人も多くいるだろう。確かにそれだけだと確かに語弊がある。悪魔は唯一、人間、人類にとっての敵なのである。


 敵かどうか、というのはその人の立場、思想、環境、様々な要因で持って最終的にその人の個人が判断するものだ。そのため一概に敵と論ずることはできない。


 しかし、一般的に悪魔というもの、概念は人類に仇なす存在として作られ、存在している。製作者たる私が言っているのだから間違いはない。


 その悪魔の実態というのは、人類に紛れ込み、自分の享楽の為に様々な残虐なことを平気で行うような存在だ。もちろんそれだけでなく、例えばより高位の悪魔は人類の中でも重要なポストにつくことで秘密裏に操っている場合もある。


 基本的に悪魔は人間を見下し、自分たちよりも圧倒的に劣等な生物、いや家畜としてしか思っていないだろう。


 そんな悪魔達に対して、この世界のプレイヤー達がどのように立ち向かっていくのか、それがこのゲームの中でも大きなテーマでもあるのだ。もちろんそれが最終章になるわけではないが、それだとしてもなんら遜色のないものだ。


 しかし、それはまだまだ先のお話という訳である。いくら最終章でないにしてもそれほどの大きなイベントというには収まらない、テーマ、グランドクエストとでもいうべきそれは、今じゃない。全くもって時期尚早なのである。


 それなのに、それだというのに、


「彼が悪魔を見つけただと……?」


 もちろん悪魔だってある日を境に急に台頭してくるわけでも出現してくるわけでもない。今も、人間達に紛れ込んでいる。そして時々人間達に嫌がらせをするかのように騒ぎを起こしたりする。


 とは言ってももちろん表社会に出るようなことは決してしない。何故なら悪魔は時がくるのを待っているからだ。まだまだ時が満ちるには早すぎる。


 ただ、悪魔たちが起こす騒ぎがプレイヤーを育て、また、伏線にもなってくる。いくつも不可解な事件を解決した先に待っているのは繋がりそうな点と点、それらを推測してようやくたどり着けるというものなのに。


「彼はどうやらなんの手がかりも無い場所で、しかも下っ端悪魔のほんの享楽であるのにも関わらず、その存在を見破り、発見しました」


 もう、彼女の言っている意味すら不明だ。


「一旦整理しよう。彼が悪魔を発見するまでに至った経緯を教えてくれ」


「はい、説明させていただきます。装備を受け取ったあと、まず彼は第三の街へと進もうとしたのですが、そのついでに依頼を受けることを選択したのでした。その依頼とは凶暴化したサラマンダーの討伐でしたが、彼は難なく突破しました。しかし、彼は何を思ったのか壁を見つめ出しました。すると、そこから悪魔が出現しました」


 あ、うん。話を聞いたところで一切分かんなかった。なんというか意味が全く噛み砕けないのだ。


 そう思ってもう一度聞こうとした矢先、


「先輩! 戦闘が始まります!!」


 その一言で空気が一瞬でピリついた。

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