第61話 悲痛な叫び
並列思考? それは同時に二つの頭を働かせることができるスキルだぞ? つまり擬似多重人格を作るみたいなことだ。
多重人格というとびっくりするかもしれないが、本来、誰でもできることではあるのだ。ただ、現代のヒトはできなくなってしまったというだけなのだ。
そして、この並列思考というスキルはその能力を開花する手助けをするものなんだが、そう、これは結構難しい技術だったし、それに応じて獲得難易度も上がっている。そんなおいそれと使える代物ではないはずなんだが……
「彼は、どうして使えるようになったと言ってたか?」
「何、衝撃で忘れてるんですか! 彼がホワイトツヴァイタイガーの装備を作ったことで使えるようになったんですよ!」
ああ、なるほど。もう一度聞いたことでようやく全貌が見えた。そもそも並列思考というスキルを普通に獲得するのは、かなり難しい。なんせ、人は普通は一つの頭でしかもものを考えないからだ。
仮に、多重人格の人がプレイしていたとしても、その人からすれば二つの思考回路があるため、容易に並列思考を手に入れることができるかもしれないが、恩恵は薄い。
よって、そこまで日の目をみるようなスキルではなかったはずなのだ。しかし、彼はそんなスキルに光を当てた。では、彼がどのようにしてそのスキルの獲得に繋がったのかだが、それは、並列思考を持ったモンスターを倒し、その成分を装備に抽出したのだ。
彼が装備に使ったモンスターというのが、ホワイトツヴァイタイガー、日本語では双頭白虎という、その名の通り二つ頭のモンスターなのだ。つまり、その特徴上、とても並列思考というスキルが強いモンスターなのだ。
それを知ってか知らずか、倒してのけ、装備にしたのだ。しかも、ただ装備を作るだけでは並列思考は使うことができない。素材の良さを完璧に引き出すことでしか生まれないのだが、それも素晴らしい職人に頼ることで成功させた。
イベントが終わったからホッと一息つけると思っていたのだが、まさかこんなにも早くやってくれるとはな。次、彼が表舞台に登場するまではかなり時間が開くが、どうなるのやら、このペースで次々にやらかされると……
もしかすると、先のイベントで大々的に存在が明らかになっていた方が良かったかもしれない。
いや、そんなことはないはずだ。その間に周りも強くなってくれるだろうし、彼も流石に成長限界を迎えるだろう。その時まで辛抱して、観察し続けるんだ。
私たちにできることはそれくらいしかないのだ。頼むから、もう少しだけでいい、もう少しだけでいいから、ゆっくりやらかしてくれ……
「先輩!! 先輩っ! 彼が、かなりエグいことやっちゃってます!! 彼、彼、彼がなんと……」
おいおいおいおい、今し方もう少しゆっくりとってお願いしたばかりだろう。それに、彼女の反応が今までの中で群を抜いて激しい。一体何をやらかしてくれたんだ?
「悪魔を見つけてしまいました」
その言葉が彼女から紡がれた瞬間、私の中で何かがもの凄い勢いで崩壊していくのが分かった。
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